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俺の妻――カヤは、一言で言うと変態だ。付け加えるとしたら性欲のかたまりだ。ちなみに相手は性別不問。
以前、カズマとその妃・リン様もトラウマを植え付けられたことがあるらしい。
それ以来、妻はこの二人のことが気に入ったらしく、結婚報告をしたいと最初に言い出したのも彼女だった。
「なぜうちにこんな書状を寄越した」
『結婚しました☆』と相手をおちょくるような文面がおどる書状を、カズマは仏頂面でこちらに見せた。
「いやあ、君たちには世話になったからな!」
「変態の世話をした覚えはないが」
「まあ聞いてくれ。私は実はずっと、先輩を手に入れるため禁欲生活を送っていたのだ。先輩に本気をわかってほしくてな」
カズマは心底どうでもよさそうに聞いている。
そしてこの話は、彼女に告白された日に俺も聞かされていた。
「しかしエロい妄想は常にしていた!実践はしなかったがな!で、そのとき一番世話になったのがこの国の面々だったのだ!」
「その記憶をすべて消去するかこの場で自害しろ」
静かに立ち上がったカズマは、剣を俺の妻に突き付けた。
おぞましいものを見るような目つきだ。
しかし、カヤは一切怯む様子がない。
「無茶を言ってくれるな!そんなもったいないことができるか!君も知りたいだろう!?妄想の中での姫君がどんな風に喘ぐほおっっっ!!!!!」
最後まで言い切らないうちに、カズマが妻を蹴り飛ばした。
いろんな意味で『妻に暴力を振るうな』とはとても言えない立場である。
俺は顔を引き攣らせながら二人のやりとりを静観した。
「こいつの前でろくでもない言葉を発するな」
ちらりと奥方に目を遣り、カズマが蔑むようにカヤに告げた。
「なるほど、ではこっそりと教えてやろう」
妻はカズマの耳元に唇を寄せた。
「まず、姫君はな、」
「待て、知りたいとは言ってない。近寄るな」
「今聞こうとしたくせに!」
カズマを指差したカヤは、怒りに燃える王子を見て、ふう、とわざとらしいため息をついた。
「しかたないな、そこまで言うなら二人きりで教えてやろう、実践込みでな」
カズマが再び剣に手を掛けたその時。
「や、やめてください!」
ずっと黙っていた奥方が慌てて二人のそばに駆け寄った。
「あっ、いえ、その……」
おそらく反射的に叫んでしまったのだろう。やきもちだろうか。奥方は、我に返った様子で口ごもった。
しかし、それを見た俺の妻は、眼を爛々と輝かせた。
ああ、嫌な予感がする。
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