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つまり、リンさまが幼女化してしまったのはツバキさんの薬のせいで、その効果が切れてしまうまでリンさまは幼女のまま、ということ、ですわよね……?
カズマ殿下の表情を窺うと、当然ながら眉間に深い皺が。
「おい変態メイド。薬で見た目は変わっても、中身は今までのままということだな?」
「あ、はい、そうっす。ただ体が小さくなるだけで――でもカズマさん、興奮しないっすか!?好きな子が幼女化ってハアハアしないっすか!?」
ガバッと顔を上げるとツバキさんは瞳孔が開いた状態でカズマ殿下に詰め寄りました。
「近寄るな、俺にそんな趣味はない」
殿下は思いきり蔑む目でツバキさんを見下ろします。ああ、その目は王子殿下としてどうなのでしょう。
「せっかく同志になれるかと思ったのに残念っす……でも幼女化したリンさんこんなにかわいいですし、カズマさんもきっとすぐロリコンに目覚め、」
「ツバキ、斬られる前にやめておきなさいね」
カイン伯爵が止めてくださったおかげで、殿下の剣が抜かれることだけは免れました。
「おい、ところで解毒剤とやらはすぐ手に入らないのか」
なんとか殺人衝動を抑え切ったらしいカズマ殿下が、ツバキさんに再び問い掛けました。
「今から材料を買いに行って調合すれば、今日中にできなくはないと思うんですけど……」
「ならさっさと作れ。国に戻ったときにまだこの姿だったら大騒ぎになる」
不機嫌そうに命じるカズマ殿下。
「ツバキ、私も手伝うから解毒剤作ってあげなさい。今から二人で買い出しに行こう、おいで」
カイン伯爵もそう言って、ツバキさんを手招きしました。
「はい、しかたないっすね、作ります」
「しかたない、じゃないよ。まったく」
「あっ、でしたら私もお手伝いいたしますわ!」
立ち上がって二人の後に続こうとすると、不意にスカートの裾を引っ張られました。
「ま、まりかさん、いっちゃうんですか!?」
ずっと黙っていたリンさまが、不安げにこちらを見上げていらっしゃいます。かわいいですわ。でも、
「リンさまにはカズマ殿下がついててくださいますから大丈夫ですわよ」
「あの、でも……」
ちらりと殿下の方を見るリンさま。中身は今までのリンさまのままとはいえ、幼女の本能的な何かがカズマ殿下を恐れてしまっているのでしょうか。
殿下は普通に立っていただけで子供に泣かれたこともある程のお方ですから無理もありません。
「心配ありませんわ。お二人でごゆっくりなさっててください」
私はすでに部屋から出ようとしていたカイン伯爵とツバキさんを、小走りで追い掛けました。
せっかくですもの。二人きりにしたらどうなるか、気になっちゃうじゃありませんか。
帰ったらリンさまからいろいろ聞き出すのが楽しみですわ。
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