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「君はもしかして私が主人だって忘れてる?」
「えっ、何言ってんすか坊ちゃん!!!こんなに坊ちゃんが大好きで坊ちゃんのことばかり考えてるのに!!!」
「この姿が、ね」
「そりゃまあ主に生足とか生足とか生足とか」
「ツバキ、お客さん呆れてるからとりあえず中に入れてあげなさい」
「えっ、ああ!失礼しました皆さん!」
伯爵家の玄関。
呆れ顔で私たちを出迎えてくださったのは、黒髪に赤い瞳、半ズボンを履いて妙に大人びた口調の、幼い少年でした。
いい歳、と聞いていたのですけれど、どういうことでしょう。
少年――カイン伯爵は、苦笑しながらこちらを振り返りました。
「見苦しいところをお見せして申し訳なかった。私はここの主人、カインです。うちのツバキが何かいろいろ勝手に決めたみたいだけど、」
「あっ!ご迷惑でしたら私たち、おいとましますので!」
慌てた様子のリンさまに、カイン伯爵はふっと笑いかけました。
「いや、そんなことはないよ。好きなだけ滞在してくれて構わない。ただ――」
そしてカズマ殿下とリンさまの服装にちらりと目を遣り、
「君たちのいたところみたいに至れり尽くせり、というわけにはいかないと思うけれど」
「妻が休む場所さえお貸しいただければ十分だ。感謝する」
カズマ殿下はそう言って、カイン伯爵に頭を下げました。
「それならよかったよ。こんな姿で申し訳ないけれど、ゆっくりしていって」
『こんな姿』という意味がやっぱりわからず、私たちはまたまた首を傾げるばかりです。
その夜、カイン伯爵は『疲れて体中痛いよ』と早めにお休みになり、私たちも慣れない場所に疲れていましたから、すぐに眠ってしまったのでした。
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そして翌朝。
「きゃ、きゃあああっ!!??」
リンさまの甲高い悲鳴が屋敷に響き渡り、私はハッと目を覚ましました。
慌てて最低限の身なりを整え、主夫婦が使う寝室のドアを叩きます。
「リンさま?カズマ殿下……?どうなさいましたか!?」
「まりかさん!まりかさん!」
何となく舌足らずな声で、リンさまが私を呼びます。無礼かとは思いましたが、私は怖ず怖ずとドアを開きました。
「失礼致しますわね?リンさま、一体何が、」
私はそこで、言葉を失いました。
寝室のベッドに、途方に暮れた表情で座っていたのは――
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