present | ナノ


▼ 

「君はもしかして私が主人だって忘れてる?」

「えっ、何言ってんすか坊ちゃん!!!こんなに坊ちゃんが大好きで坊ちゃんのことばかり考えてるのに!!!」

「この姿が、ね」

「そりゃまあ主に生足とか生足とか生足とか」

「ツバキ、お客さん呆れてるからとりあえず中に入れてあげなさい」

「えっ、ああ!失礼しました皆さん!」


伯爵家の玄関。

呆れ顔で私たちを出迎えてくださったのは、黒髪に赤い瞳、半ズボンを履いて妙に大人びた口調の、幼い少年でした。

いい歳、と聞いていたのですけれど、どういうことでしょう。


少年――カイン伯爵は、苦笑しながらこちらを振り返りました。

「見苦しいところをお見せして申し訳なかった。私はここの主人、カインです。うちのツバキが何かいろいろ勝手に決めたみたいだけど、」

「あっ!ご迷惑でしたら私たち、おいとましますので!」

慌てた様子のリンさまに、カイン伯爵はふっと笑いかけました。

「いや、そんなことはないよ。好きなだけ滞在してくれて構わない。ただ――」

そしてカズマ殿下とリンさまの服装にちらりと目を遣り、

「君たちのいたところみたいに至れり尽くせり、というわけにはいかないと思うけれど」


「妻が休む場所さえお貸しいただければ十分だ。感謝する」

カズマ殿下はそう言って、カイン伯爵に頭を下げました。

「それならよかったよ。こんな姿で申し訳ないけれど、ゆっくりしていって」


『こんな姿』という意味がやっぱりわからず、私たちはまたまた首を傾げるばかりです。



その夜、カイン伯爵は『疲れて体中痛いよ』と早めにお休みになり、私たちも慣れない場所に疲れていましたから、すぐに眠ってしまったのでした。



****



そして翌朝。


「きゃ、きゃあああっ!!??」


リンさまの甲高い悲鳴が屋敷に響き渡り、私はハッと目を覚ましました。

慌てて最低限の身なりを整え、主夫婦が使う寝室のドアを叩きます。

「リンさま?カズマ殿下……?どうなさいましたか!?」


「まりかさん!まりかさん!」

何となく舌足らずな声で、リンさまが私を呼びます。無礼かとは思いましたが、私は怖ず怖ずとドアを開きました。


「失礼致しますわね?リンさま、一体何が、」


私はそこで、言葉を失いました。


寝室のベッドに、途方に暮れた表情で座っていたのは――

prev / next
(4/18)

[ bookmark/back/top ]




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -