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そう言うと、時春さんは自分の首元のネクタイを引き抜いた。

休日なのにスーツ姿なのは高級フレンチのためかと思っていたけれど、そうではなかったのかもしれない。

当たってほしくない予感は的中し、外したネクタイで私の手首は拘束された。

「ちょ……っ、何を……」


時春さんは素早く立ち上がり、テーブルに残されていた私の食べかけのケーキとフォークを持って、すぐに戻ってきた。

起き上がろうとしていた身体を軽く押されて再び仰向けに倒れた私に、時春さんが馬乗りになる。


明らかに犯罪的な体勢だ。


「ほら、お嬢さん。大好きなお仕置きですよ?」


私は全身に鳥肌が立つのを感じた。

「気持ち悪い!!!!!」


痴漢を蹴り上げるために足を動かそうするも、体重をかけられていてそれがかなわない。


「はい、お嬢さん。あーんしてください」

フォークに突き刺した一口分のケーキを、ニヤニヤ顔の時春さんが私の口元に差し出す。

何か言うために口を開けたら無理矢理押し込まれそうで、私は無言で首を振った。

「まだ意地を張る気ですか。――しかたないな、お嬢さんが食べないならこのケーキ俺が食べちゃいますよ?それでその後お嬢さんの耳を舐めます」


耳を舐める必要性がどこに!?

――という言葉も口に出せず、私はひたすら危険を感じながら歯を食いしばった。


「俺だってお嬢さんのケーキを横取りなんてしたくないんですよ。さあ、お嬢さん、どっちがいいですか?」

意味もなく真顔で、時春さんがこちらを見下ろす。

「……っ」


最悪だ。

最悪の二択だ。

どう転んだって最悪だ。


だけど――


怒りと悔しさ、そして羞恥に顔を歪ませながら、私は何度も躊躇ってから小さく口を開いた。


「……っ、するなら早く、してください……っ!」

時春さんの顔を見ないようにして、悔しさに震える声で言う。


「お嬢さん、今のすっごいゾクゾクしましたよ!」

恍惚とした表情で言っているのだろう。頭が痛くなるような発言をした後、時春さんはケーキをさらに近づけた。

「はい、お嬢さん。ゾクゾクさせてくれたお礼です」

甘いクリームが舌に触れる。

「……っ、」

さっきまであんなに美味しいと思っていたケーキは、味なんてわからなくてただひたすら甘ったるかった。

だいたいさっきまで『お仕置き』とか言っていたくせにいつの間に『お礼』になったのか、わけがわからない。


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