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(おまけ)


「リンさま、先程陛下からの――あらっ?」

書状を手に中庭へやって来た私は、新鮮な光景に思わず声を上げた。


リンさまが、微笑みながら人差し指を口元に当てる。


そんなリンさまのの膝の上で、気持ちよさそうに眠っているのは――カズマ殿下。

普段は隙のない所作で、相対する者が背筋を伸ばしてしまうような方だけれど、今の殿下にその面影はない。


『妻の膝の上で寛ぐ夫』にしか見えなくて――事実そうなのだけれど――私は微笑ましい気持ちになった。


「貴重なものを目撃してしまいましたわ」

声を潜めてそう言うと、リンさまはクスクスと笑った。

「とっても油断していますよね」


確かに、こんなに無防備な殿下の表情を見たのは初めてだ。


頑なに執務室から動こうとしなかった殿下が、なぜこんなことになっているのかはわからないけれど、

「リンさまにかかればカズマ殿下も形無しですわね」

からかうように言うと、リンさまは驚いたように目をまるくして、それから慌てて首を振った。

「そ、そんなことありません……!それは私じゃなくて陛下ですよ。ほら」

読み終えた陛下からの書状を私に手渡すリンさま。


「あらまあ。さすがは陛下ですわ」

一読し、私は思わず苦笑した。

確かに、陛下からすればカズマ殿下も『まだまだ』なのだろう。こんなことを殿下に言えるのはこの世に一人だけだ。


それでも、私が言いたかったのは、

「リンさま。陛下には殿下の仕事をお止めすることはできても、ひざまくらはできませんわ」


リンさまはますますわけがわからないといった様子で首を傾げた。

「えっ?ひざまくら?」

そして、何かを考える表情になり、

「……陛下ならできそうですけど」


『カズマ、ひざまくらしてあげよっか』なんてふざける陛下のお姿が、私の脳裏にも過ぎった。

確かに。


――いえ、だからそういう話でもなくて、

「カズマ殿下を隙だらけにしてしまえるのはリンさまだけ、という意味ですわ」


「ええっ……!?」

リンさまの頬が赤く染まる。


カズマ殿下を隙だらけにしてしまえるのはリンさまだけ――そんなことは、王宮じゅうの誰もが知っているというのに、当の本人はいまだにその事実に慣れないらしい。

驚いたり照れたり慌てたり、いつまでたっても新婚ほやほやのような反応をするリンさま。


カズマ殿下がからかいたくなる気持ちが、こんなときはよくわかる。



だけど、

「あまり騒がしくして殿下がお目覚めになってはいけませんわね。私は失礼いたしますわ」


野次馬はおとなしく退散することにした。

カズマ殿下の貴重な休息時間を邪魔するわけにはいかない。



陛下に何てご報告しようかしら、などと考えながら、私は中庭を後にした。


今日も王宮は、とっても平和だ。




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(9/10)

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