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――と。陽射しに透けた書状の文字が、目に止まった。

先程、妻が読み上げた時のことを思い出し、違和感を覚える。


「おい……それを見せてみろ」

俺が手をのばすと、彼女はギクリとした表情になり、目を逸らした。

「あっ、えっと、」

口ごもる彼女から書状を奪い取る。


一読し、俺は彼女に視線を向けた。

「お前は何故、追伸を読まなかった」

「あ、う……そ、それは……」

顔を赤くして、明後日の方向を見る妻。


父からの書状には、追伸があったのだった。

『カズマにしてはよく頑張ったから、ごほうびにリンさんに甘やかしてもらいなさいね』

――という。



「な、なんで気付いたんですかっ……?」

妻が、気まずさと恥ずかしさが入り混じったような表情でこちらを窺う。

「お前の名前が透けて見えた。だがさっき、お前は自分の名前を口にしていない。こんなことだろうと思ったが――国王からの書状を捏造とはいい度胸だな」

「ね、捏造なんて……!だってそんなの私の口からはとても言えないし、それに今だってちゃんと……」


おろおろと言い訳をする妻を見上げていると、思わず吹き出してしまった。


「そうだな。確かに甘やかされてる」


手をのばし、髪を一束指に絡めて弄ぶと、妻は困ったような顔をした。

「え、と……」


もっと困らせたい、とも思ったが、今は。


「でもまだ足りない」


「えっ、何が……っ、ひゃあっ!」

妻の方へ身体を傾け、細い腰に腕を巻き付けると、彼女は小さな悲鳴を上げた。


「お前に触ってると、よく眠れるんだ」


「えっ、そ、そうなんですか……?」


彼女の服に顔を埋めるようなかっこうになっているせいで表情は見えないが、体温が伝わってきて、俺はそのことにひどく満たされた気持ちになった。


「あと半時程、寝かせてくれ」

回した腕は離さないまま、目を閉じる。

疲労のせいなのか、妻のおかげなのか、すぐにぼんやりと意識が薄れていく。


「えっ、あの、こ、このまま……っ?」

「……」

「か、カズマ様……?」

「……」


眠ったふりをして、返事をしない。


「え、えと……」

妻はしばらく戸惑っていた様子だったが、結局は諦めたのか、小さなため息をついた。



――そして、俺の髪に細い指が触れた。

慎重な手つきでゆっくりと、髪を撫でる妻。



記憶の奥の奥――最も深いところにある、忘れかけていた何かが、呼び起こされる。


守られている、という感覚。


彼女を俺が、守りたいはずなのに。


しかし、今はそのことが、幸せに思えた。

こうしていてもいいのだと、許されている気がした。



心地良いその手と、鳥の鳴き声、穏やかな風、草花の香り――そして、抱きしめたあたたかさとやわらかさに身を委ね、俺は今度こそ、自発的に意識を手放した。



end





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