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「あ、カズマ様。起こしちゃいましたか?ごめんなさい」


ぼんやりと目を開くと、こちらを見下ろす妻と視線が合った。

彼女は、右手をすっと引き、申し訳なさげに言う。


「……?」

状況がよくわからなかった。


それが表情に出ていたのだろう。妻がくすくすと笑った。

「カズマ様、ふらふらしながらここまで来て、倒れちゃったんですよ。覚えてませんか?」

「……なんとなくは」


しかし、妻の顔を見て安心して意識が途切れたところまでしか当然記憶がない――だから、この体勢には、覚えがなかったのだが。


その答えも、妻が用意してくれていた。

「ちょっとでも楽になればと思って、勝手にひざまくらしちゃいました。あの、背中とか痛くないですか?」

「大丈夫だ」


むしろ、何かひどく幸せな夢を見ていた気がする。

夢に出てきたのは、両親だろうか――こいつだっただろうか。


布越しに、やわらかなふとももの感触。

それで、よく眠れたのだろう。


「……俺はどれくらい寝ていた」

「そうですね、ほんの二時間くらいでしょうか」

「……っ!」

俺は慌てて身体を起こす。

油断しすぎた。仕事が全く片付いていないというのに。


しかし、

「……っ、何をする」

起こした頭と肩を、妻にぐい、と押し返され、俺は再び彼女の膝に身体を預けるかっこうになった。


「まだ寝てろ、って言うときのカズマ様の真似です」

妻は、いたずらっぽく笑った。

「何を、」

「さっき、陛下からのお手紙が届きました」

そう言った彼女の手に握られていたのは、一枚の書状。


「どういうことだ」

全く話が見えなかった。


「読みますね。ええと……『カズマへ。今残ってる仕事は締切が今日のもの以外は全部置いておくこと。国王命令です。これが届く翌日には私は帰ってくるんだから、意地になる必要はないよ。私の方がよっぽど要領よく片付けられるから、カズマは自分の分を弁えた仕事をしなさいね。おとーさんより』だそうです」


妻は満面の笑みを浮かべ、俺は眉間に皺を寄せた。


「……お前、父上に告げ口したな」

「三日前、カズマ様からの報告書類の中にこっそり紛れ込ませました」

悪戯が見つかった子供のように、妻が肩を竦める。

似合いもしない小癪な真似をしたものだ。


俺がジトリとした視線を向けると、彼女は書状で顔を隠した。

「陛下からも言われてたので。カズマ様を無理させないことが私の仕事だって。でもきっと『王子』としてのカズマ様は、陛下の言うことしか聞かないだろうからって。――だから私、陛下からのお返事が来るのをずっと待ってたんです」


成る程。はじめから結託していたわけか。

この二人が組んで、俺が勝てるはずはなかった。

俺は大きなため息をつく。



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