▼
「あるばーとさん、きのうよんだほんにぺっとのことがかいてありました」
「……ミリアム。もう本は読んでやっただろ?おとなしく自分の部屋に帰れ」
「はい、でも、おしえてほしいことがあるのです。あるばーとさん、わたしはあるばーとさんをやさしいきもちにしている、できてますか?」
「何だって?」
「ぺっとをかうと、やさしいきもちになるとかいてありました。わたしはあるばーとさんに、すむところをもらっています。かわりにやさしいは、あげられていますか?」
「……」
俺は返答に窮した。
『お前はいずれ、俺に大金を運んでくれるんだ。そんなものはいらないよ』
まさかそう言うわけにもいかない。さすがに、売り払う計画だということは誰にも話していない。
「ミリアムが来てから、ステラがよく笑うようになったよ」
「すてらさんがですか」
「お前に言葉を教えたり、一緒に庭で遊んだりするのが楽しいんだろう。ステラはお前が好きみたいだ」
「わたしもたのしい、すきです」
「そうか」
「あるばーとさんはどうですか?」
「え?」
「わたしをすきですか?」
「……」
「わたしはあるばーとさんがだいすきです。ぺっともかいぬしがだいすき、いいことだってかいてありました。あるばーとさんは、わたしをすきですか?」
「……当たり前じゃないか」
嘘はついていない。
嫌いなわけではないし、単純に『可愛いな』と思うこともある。悪い感情は持っていない。
けれど、ミリアムに対して罪悪感を覚えたのは、これが初めてだった。
その日の夜、喉が渇いて起き出すと、なぜかミリアムが暖炉のそばですすり泣いていた。
暖炉に火は入っていない。
声をかけると、しがみついて離れなくなったから、しかたなく俺の寝室まで連れて行き、同じベッドで寝た。
冷え切っていたミリアムの身体はすぐにあたたかくなり、俺はそのぬくもりに、何故かひどく安心した。
何か夢を見た気がするけれど、よく覚えていない。
*
prev / next
(4/24)