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私は大慌てで平城の右手を掴んだ。


「ちょ……待て、平城!違うから!」

「真也、って呼べ――っつってんだろ」

「ああもうわかったから、真也。一体どこからわいて出たんだ」

「紗弥がいつまで経っても待ち合わせ場所に来ねえから心配して探してたんだ。そしたらこんな軽そうな男と…」

「それが原因でキレたのか……」

「当たり前だ。『大好きだ』って言われてただろ、こいつに。とりあえず殺していいか。ていうか殺す」


私の手を退けて、平城は改めて電柱に手をのばした。

やばい。

「待てって、誤解だってば!この人が大好きなのは彼女さん!さっき中原に彼女さんがさらわれて――」


私は早口でこれまでの経緯を説明した。

平城は眉を潜めて聞いていたけれど、事情を把握すると、安堵のため息をついた。


「そうか、よかった。安心した」

心底、ほっとしたような表情を見せる。だから、そういう顔をされると――


そこで、ずっと黙っていた早瀬さんが、呆れたように呟いた。

「紗弥ちゃん、すごい好かれてるな」


「……いや、その」

「当たり前だ。こいつは俺の生涯ただ一人の女だ」

私が口ごもっていると、平城がいけしゃあしゃあとそんなことを言った。


「ちょ…そういうことを今、」

「安心したからキスさせろ」

「はあっ!?こら、ちょっ……やめっ!」

早瀬さんがいる前で、平城は私に密着し、ギリギリまで顔を近づけた。

今度は両腕で押さえつけられているから、逃げようがない。

だから、そんな至近距離で目を閉じるのはやめろ。こんな状況なのに、勝手に心臓が速くなってくる。


――と、平城の目が突然、ぱちりと開いた。

さっきまでの獲物を捕える目つきではなくて、少し穏やかな目。


「………あれ、田村さん……っ、わあああああっ!近いっっ!!!」


平城は、大声で叫ぶと、真っ赤になって両手を離した。更に勢いよく後ずさる。


「戻ったか」


ほっと息をついた私が早瀬さんを窺うと、早瀬さんは目を白黒させていた。

「『戻った』……?」

混乱しているんだろう。そりゃあそうだ。さっきまでの自信満々な平城とは全然違って、今の平城は「ごめん田村さん、嫌な思いさせちゃったのかな…?」なんて酷く自信なさげにこちらを見ているのだから。


「ええと、こいつは平城真也って言って……まあとりあえず、二重人格です」

「そ、そうか」

手っ取り早く説明する。なんといっても時間がないのだ。

早瀬さんも、圧倒されながらも納得したようだった。


「そうだ、平城も着いて来てくれないかな?いざってとき、いてくれると心強いし。相手は中原だし」

私が振り返って平城に声を掛けると、平城は瞳を輝かせた。

「えっ、うん!もちろん!田村さんが頼りにしてくれるなら、何でもするよ」

「やりすぎないでいいからね」

「うん、わかった!」


そんなわけで、『変態の手から女の子を救い出す』という使命を帯びた私たちに、強力な助っ人が加入した。



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