倉田慎一郎:愛する女を薬で調教した男
科学部隊の天才研究員。
倉田慎一郎という人間の本質は、そこにはない。
もちろんそのことを知っているのは、倉田当人だけである。
『部下を新薬の実験台にした最低の人間』ーー部下の親友を自称するとある女によるその評価は、当たらずとも遠からずといったところだろうか。
倉田は知っている。彼女ーー三奈木里美は、同性である『親友』に邪な恋情を抱いており、『親友』の情事を覗きながら自慰に耽っており、あろうことか『親友』をネタにした同人誌まで描いているということを。
だが、そんな三奈木を、倉田は特に軽蔑していない。相手にもしていないが。
全ては恋心によるものだと理解しているからだ。
それより軽蔑に値するのは自分だと、自覚しているからでもある。
「倉田さん、最近はもう新薬の人体実験はしなくていいんですか?」
部下である百原雪野が問い掛ける。
「ああ、もう俺がやるべきことは済んだからね。今は山本に任せてるよ。彼は彼で、実験台の当てがあるだろうから」
「そうですか……、他の人を実験台にしてるんじゃなくて安心しました」
部下は心底ほっとしたように笑う。
これもある意味、調教の成果か。
ーーそう、百原への新薬投与は、人体実験などではなかったのだ。
「……それより倉田さん、今日も標的を一人殺しました。今日はすごく手強かったんです。だから、いっぱいしてください」
「いっぱい?どんな風にしてほしいの?」
「……こんなふうに、」
倉田の手を取り、百原は誘導する。
先程まで指一本触れていなかったのに、前置きもなしに、下着の奥へ、直接。
指一本触れていなかったはずのそこは、驚くほどに潤いで溢れていた。
「雪野はほんとに……いやらしい子だね」
倉田は、昂りと共に、大きな充足感に満たされる。
「調教した甲斐があったよ」
「え?くらたさん、聞こえない……あっ、」
「聞こえなくていいんだよ」
何処の世界に、惚れた女を好き好んで実験台にする男がいるというのかーーーーいや、いるのかもしれないが自分はそのようなマッドサイエンティストではない。
実験台なら無数に『ある』。捕虜になった者たちや業者から安く買った元浮浪者など。
それらで新薬の人体実験は事足りていた。
では、倉田は人体実験と偽り、百原に何を投与していたのか。
簡単に言ってしまえば、媚薬である。
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