野村颯斗:上司が主人公のエロ同人誌で抜く男
「ももちゃんっ……ももちゃんっ」
暗殺部隊男子寮は、一人部屋である。
壁もそう薄くはなく、隣室に気がねすることもあまりない。
だが、野村颯斗(のむらはやと)は真夏だというのに頭から布団を被り――自慰行為に夢中になっていた。
そばにあるのはエロ本……ではなく、エロ同人誌。主人公は野村の上司だ。
「ももちゃんっ……くっ……」
屈辱に顔を歪めながら股を開く淫らな上司のイラストを見つめながら、野村の昂りは頂点に達した。
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暗殺部隊の大型新人。
野村颯斗は最年少ながら既に戦力として『ロバの耳』を支える、貴重な人材である。
暗殺のスペシャリスト・百原雪野の班に所属している野村は、直属の上司である百原とろくに会話をしたことがなかった。
もちろん、仕事に必要な最低限の言葉は交わす。
だが、仕事を終えて雑談など、したこともないのである。
理由のひとつはもちろん、百原があまり他人を寄せ付けるタイプではないことだ。
自分から誰かに話し掛けるところなんて、三奈木里美相手でなければ見たこともない。科学部隊の方が居心地がいいらしい、とも聞いたことがある。
もうひとつの理由は――野村が百原に一目惚れをしたせいだ。
それでなくても女性が苦手な彼は、片想いの相手にほいほいと話し掛けるような身軽さは持ち合わせていない。
要は奥手なのである。
『ロバの耳』に入り、先輩に風俗店に連れていかれて初めて、女性を知った。
見た目はかなりのイケメンだと評されているのだが、いかんせん彼自身がこれまで暗殺にしか興味がなく、女性とどうこうなどと考えたこともなかったのだ。
そんな野村が百原に一目惚れをし、しかし近づけるわけもなく『風俗で処理するしかない』と考えていたある夜――その同人誌『えろっ娘☆ももちゃん』が彼のもとに降臨したのである。
『大田へ 例のブツだ 坂井』
そう書かれた大きな封筒が、自室の郵便受けに入っていた。
大田は隣の部屋だ。間違えたらしい。届けてやろうと手に取ると、封がされておらず、バサバサ、と中身が床に散らばった。
そして目に飛び込んできたイラストに、野村は動転した。
百原雪野だ。
『えろっ娘☆ももちゃん』と書かれた表紙に下着姿でこちらを睨む、百原の姿があった。
イラストではあったが、よく特徴を捉えていて、一目で百原だとわかった。
『ふ、不可抗力だ……よな』
恐る恐る中を開くと――一瞬で引き込まれた。
作者の愛情を感じる、トンデモ展開なはずなのに妙にリアリティのあるももちゃんのセックス描写。
『百原先輩のセックスはこうあってほしい』という理想が詰まっている気がした。
気づけば、ズボンのチャックを下ろし、自らのものに触れていた。
『も、ももちゃん……』
恐る恐る、呼んでみた。
ぞくり、と快感が走った。
その日初めて、野村はイラストの女で抜いた。
『中身は見てませんから!』と大田に封筒を渡したが、あらかじめ同人誌の奥付に書かれたURLを携帯で撮影していた。
そこにアクセスすると、通信販売をやっていることがわかり、また男子寮のほとんどが読者であることがわかった。
おそらく作者のパイナップル富男も男子寮の誰かなのだろう。
野村は、既刊五冊を注文した。
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