親友の情事を覗く女
三奈木里美(みなぎさとみ)は、医療・救護部隊に所属している。
怪我人の処置や病人の治療、皆の健康管理などが彼女の仕事だ。看護師である三奈木は皆から頼りにされており、中でも彼女に絶大な信頼を寄せているのが――親友の百原雪野である。
他の者たちに対するときと同じく、三奈木にもそっけないが、それでも彼女らの絆は揺るぎないと、当人たちも周囲も、わかっていた。
「ももちゃん、今日はちゃんと朝ごはん食べた?」
「ああ、最近は毎日食べている。里美がうるさいから」
「なんとでも言いなさい!ももちゃんの身体のためならあたしは喜んで悪者になりましょうとも」
「声がでかい。物理的にもうるさい」
小柄で黒髪、冷たい美貌の百原と、長身でふんわりと巻いた茶髪が似合う、やわらかい雰囲気の三奈木は、タイプは正反対だが美人コンビとして名高い。
自他共に認める親友である二人だが、彼女らとて人間。互いに隠していることも、もちろんあった。
百原の隠し事はもちろん、『人を殺した分だけ上司の倉田とセックスをしていること』。もっと単純な言い方をすれば、倉田に惚れていること自体、百原は三奈木を含めた誰にも話していなかった。
そして、三奈木の隠し事はというと――
「くらたさ……はやく、いれて」
「雪野、焦らなくていい」
「でもっ……はやく、」
「本当にいやらしいな、雪野は」
「…………っ、」
第九研究室、その薄暗い戸棚の中。
百原が暗殺を終えた日の、三奈木の『特等席』である。
そう、彼女の第一の隠し事は、『ももちゃんが暗殺のご褒美に倉田さんとセックスしてると知っていること』だ。
だから、百原が倉田の前でだけはよく笑うことも知っているし、倉田にしか見せないいやらしい表情があることも知っている。
(倉田のバカ野郎……しね)
そして、第二の隠し事。
『三奈木里美は百原雪野に恋をしている』
――これはある意味、百原への裏切り行為かもしれない。百原が三奈木に向けているのは、純粋な友情なのだから。
親友として百原を大切にしたい気持ちも本当なのだ。
ただ、いつからか、それだけでは足りなくなった。
だから――
(ももちゃんにそれを、ぶつけちゃいけない。そのために……自分で処理しなくちゃだから……)
第三の隠し事。
『三奈木里美は百原雪野のセックスを覗き見ながら、自慰行為に耽っている』
百原だけではない。誰かにばれたら死ぬしかない隠し事だ。
百原が暗殺を終えて倉田のもとへ向かう日は、合鍵で第九研究室に侵入し、戸棚に隠れる。ことが終わると、倉田が帰宅するのを待ってひそかに出ていく。
全室の合鍵が、三奈木には託されている。これは幹部からの信頼がいかにあついかを物語っているといえるだろう。
『ロバの耳』を裏切る気は万にひとつもないが、これはじゅうぶん、職権乱用だ。
それでも三奈木は、やめられないのである。
「くらたさ、ああっ……!」
「雪野、いきそう?」
「ふ、ぁ……んんっ!」
「いい顔。興奮する」
(ももちゃん、どんな顔してんの……?)
戸棚の中からではちょうど見えない位置で倉田が百原を抱いている。
百原の喘ぎ声に合わせるように、三奈木は指を動かした。
下着はびしょびしょだ。終わった後はいつも不快になる。だが、手を止めることはできないし、溢れるものも止められない。
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