秘密結社ロバの耳 | ナノ


 百原雪野:ご褒美のために暗殺をする女

――今日は三人、殺した。



百原雪野(ももはらゆきの)は、秘密結社『ロバの耳』の暗殺部隊と科学部隊を兼任している。

無口な職人気質の研究員。だが、暗殺部隊の誰よりも、殺しが上手かった。

暗殺部隊への転向を幹部たちに説得されても頑なに拒否。――が、科学部隊の上司・倉田慎一郎(くらたしんいちろう)の『交換条件』に、ついに折れた。

条件の内容は皆に知らされぬまま、百原は最も過酷な二部隊を掛け持ちすることになったのだ。



****


「百原さん、お疲れ様でした。今日はもうお帰りですか?」

「いや、研究室だ」

「兼任大変っすね。頑張ってください」

「ああ、ありがとう」


小柄だが引き締まった背中になびく長い黒髪。凛としたその後ろ姿を、後輩たちは憧憬の眼差しで見送る。

無駄話をすることもない、めったに笑うこともない――いや、感情を見せることのない女を、彼らは神聖な何かのごとく慕っていた。



そんな百原は、『ロバの耳』所有ビルの地下へと迷わず歩を進めていく。


防弾チョッキを着込んだ武骨な姿から、スマートな白衣に着替えている。どちらも美しいと、評判だ。



そして地下の最奥――第九研究室。

そこで彼女は立ち止まり、慣れた手つきでパスワードを入力した。開いたドアから、暗い室内に滑り込む。


そこは、彼女のもうひとつの仕事場であり――現在この部屋にいるのは、彼女の上司ただひとりだった。



「倉田さん!ただいま戻りました!」


『ロバの耳』の、他の誰も見たことがないだろう。百原が頬を染めて笑うところなど。


「お帰り、百原さん。今日は何人殺した?」

パソコンを前に腰掛けていた男が、椅子を回転させて振り返る。


「三人殺しました」

「よくやったね。じゃあその分だけ――ご褒美をあげよう」


男が微笑むと、百原はぱっと瞳を輝かせた。


「今日と明日と、明後日も?」

「ああ、『交換条件』だからな。――ほら、おいで」


頷く間も惜しいとばかりに、百原は男のそばに駆け寄った。

そして、素早くひざまずく。


「倉田さん……」

ガチャガチャ、と音を立てて男のベルトを外すと、百原はさらに、ズボンのチャックを下ろした。

驚くこともなく、愉快そうな笑みすら浮かべながら、されるがままの上司――倉田。


百原は、チャックを開いたその先にある『それ』に、いとおしげな手つきで触れると、躊躇いもなく咥えこんだ。


「んっ……」

一心不乱に舌を動かし、そのたびに卑猥な音が立つ。


次第に、倉田の呼吸が速くなってくるが、その表情は変わらない。


「そんなにそれ、好きなの?」

「んんっ、」


唇を離し、代わりに右手を激しく動かしながら、百原は呟いた。


「だってこうしないと、倉田さん興奮してくれない……」

「そんなことないけど。雪野は俺を興奮させて、どうしたい?」

「ご褒美のセックス」


百原は即答した。

そして再び、上司のそれを口に含む。



prev / next

back/top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -