百原が絶頂を迎えるたび、後を追うように三奈木も自らを絶頂へと導き、全てが終わったころにはくたくたになっていた。
「……っ」
声を出せないから、溜め息もつけない。
小刻みに震える自分自身の肩を抱きながら、呼吸を落ち着ける。
外では二人が、『仕事を終えた上司と部下』を装うために、きっちりと服を着込んでいる。
先程倉田が百原に付けたキスマークも、隠れるくらいに襟の詰まった服装だ。
隙のない研究員の顔になった百原は、倉田とともに部屋を出ていった。
『倉田さん、すき……』
『俺もだよ』
「ほんとなわけ?倉田……」
誰もいなくなった研究室に、三奈木の声が響いた。
百原が倉田に惚れているのは間違いない。これでも親友なのだ。ただ性欲だけで誰でもいいからセックスをしたがっているわけではない、百原は。
だが、肝心の倉田の真意がわからなかった。
かつては百原をよく新薬の実験台にしていた。彼女を大事にしてくれるとはとても思えない。
「いつかこんな関係、終わらせてやる」
苦々しく呟いて、三奈木も研究室を後にした。
****
『「えろっ娘☆ももちゃん」今回もサイコーでした!』
『パイナップル富男先生の次回作も、期待しています!』
『毎晩ももちゃんで抜いてます』
帰宅した三奈木は、パソコンを開き、とあるSNSにログインした。そして、ずらりと並んだ新着メッセージをひとひとつ開封していく。
これは全て、同人作家・パイナップル富男作のナマモノ同人誌『えろっ娘☆ももちゃん』の感想である。
――三奈木里美、最後の隠し事。
『三奈木里美は百原雪野を主人公にしたナマモノ同人誌を描いている』
数年前、出来心で製作した同人誌を、悪戯心で暗殺部隊男子寮に送ってみたところ、大ヒットとなったのである。
もちろん作者の正体はばれていないし、この同人誌の存在は百原には絶対に秘密という暗黙の了解の上に大流行した。
主人公のももちゃんがいろんな男にやられてしまうストーリーだ。できるだけ皆の『百原雪野』像を壊さないまま、執筆している。
倉田との情事を覗くようになってから、自分の描くももちゃんは解釈違いだったと分かったが、本当のももちゃんのセックスを男どもに教えてやる気はない。現実とは掛け離れたももちゃんのセックスを描き続けているのだった。
自分の妄想が形になって、数多の男が『あたしのももちゃん』で抜いている。
だが、彼らは『本当のももちゃんのセックス』を知らない。
知っているのは――倉田以外では、あたしだけ。
最低最悪な趣味だと痛いほどわかっていながら、三奈木はいつも、そのことに酷く興奮を覚えるのだった。
(ほんとはももちゃんとしたいけど……)
今日も彼女は、薄暗い戸棚で目を凝らしながら、下着をじっとりと濡らしては、悦んでいる。
三奈木里美は、親友の情事を覗く女である。
prev / next