運命の人(仮) | ナノ


 柴田家にて

『彼氏の実家に挨拶へ行く』という難関を、私は数ヶ月前、あっさりとクリアした。

というのは決して私がうまくやったわけではなく(むしろ苦手分野だ)、柴田家の面々の性格によるものである。


結婚して実家を出ているお兄さんまでわざわざ戻ってきて、実に賑やかな歓迎を受けた。

大量の食事がふるまわれ、笑顔で質問攻めにされ(何故かすべてジローが返答した)、最終的には『せっかくだから泊まっていけばいいのに』と迫られた。

翌朝が早いため遠慮したのだが、『だったらまた泊まりに来てね!』とお母さんに笑顔で手を握られ、思わず『はい』と答えてしまい――結果、『彼氏の実家にお泊まり』という更なる一大イベントを今日、経験することとなった。




「あの、お手伝いを……」

「いいからいいから!香奈ちゃんは座ってて!」

「いえ、でも前回も、」

「料理好きなのよー、だから気にしないでっ!」

「おーい、香奈ちゃん、野球中継始まったぞー!見よう見よう!」

「えっ、あ、はいっ、あの、」

「お父さんたらー、私が香奈ちゃんと話してるのにっ」

「あの、ほんとにお手伝いを、」

「うわっ!香奈ちゃん、いきなり三塁打だぞ!やばいやばい!早く早く!」

「えっ、はい、あの、」


ジローが二人いたらこんな感じなのだろう。

いや、仮にジローが二人だったなら『うるさい!』と一喝できるが、ご両親が相手ではそうもいかない。

当のジローがいちばんおとなしく見えるほどだが――意外にも居心地は悪くなかった。



「おー、いい球だなー」

「調子上がってきましたね」

「香奈ちゃん、お肉まだあるわよー」

「ありがとうございます、いただきます」

「香奈ちゃん、しかしいい飲みっぷりだねー」

「次郎さんに鍛えられましたから」

「香奈さんもともと強いじゃないですかー」
「次郎さんだなんて!ジローでいいわよジローで」
「よっしゃ、チェンジ!次は四番に回るぞっ」

「同時に喋らないでください!」


外が真っ暗になる頃には、この家族に馴染んでしまっている自分がいた。

これまででは考えられないことだ。やはり柴田家のコミュニケーション能力は恐ろしい。


しまいには、お母さんが古い人生ゲーム(もちろんTVゲーム版ではない)をひっぱりだしてきて、いい大人が四人で夢中になる始末だった。



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