「うちじゃ飼えないわよ」
「うーん、実家に預けようかなあ」
「ご迷惑でしょうが」
「見るだけ見てったらええよ!掬わんでも」
金魚すくい屋のおじちゃんがニコニコと手招きをしてくれたから、俺たちは水槽のそばにしゃがみこんだ。
ちょうど、幼い男の子が奮闘している。
「おおっ!うまい!」
「そこよ!いけっ!」
「にーちゃん、ねーちゃん、うるさいぞ!」
男の子に一喝され、大人しく見ている――つもりが、一匹の金魚が和紙の上に捕らえられた。
「きた!!!」
「いけるっっっ!!!」
――が、
「きゃあっ!つめたっ!」
最後の抵抗、とばかりに金魚が大きく尾びれを揺らしたから、和紙は無惨にも破れ、金魚は勢いよく水中へと戻っていった。
そのとき撥ねた水が、香奈さんの顔にかかってしまったのだ。
「あははっ!ねーちゃん、へんなかお!」
「び、びっくりしたー!」
男の子と笑い合う香奈さんから目が離せなくなり、俺はしばらくぼうっと見つめ続けていた。
夜店の灯りにぼんやりと照らされた、屈託なく笑う香奈さん。浴衣や髪型のせいかそれでもどこか艶っぽくて、いつもと違って、落ち着かない。
付き合い始めてから、いろんな香奈さんの表情を見てきたけれど、まだまだ俺の知らない香奈さんがたくさんいて――そのことが悔しくも嬉しくもあった。
「……何見てるのよ」
ハンカチで顔を拭きながら、香奈さんがジト目でこちらを振り返る。
「あ……、写真撮るの、忘れてたなって」
俺は、さらなるジト目に晒されることになった。
イカ焼き、たこ焼き、はしまき、わたあめに唐揚げ、……以前にも増して俺たちはよく食べた。
なぜ夜店の食べ物というのはこんなにおいしく感じるのだろう。
さすがに最後に花火が控えているから、香奈さんも今回は帰ろうとせず、夜空がよく見える場所を確保しに広場へ向かったのだった。
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