とりあえず、ジローは妙な呼び方をするのをやめたようだ。
よかった。
「ほら、ばかなことやってないで寝るわよ。こんな時間じゃない」
「えっ、寝るんですか?いちゃいちゃは!?」
「誰が彼氏の実家でいちゃつくか」
「声が出せない状況で身悶える香奈さんを楽しむといういやらしいイベントはないんですか!?」
「窓から落とすわよ」
「彼氏の実家で!?」
その後もいちゃいちゃを懇願してくるジローをはねつけ続け、なんとか諦めさせることに成功した。
私にしては快挙である。
「……わかりました、なら今日はがまんします」
「当たり前よ」
「帰ったら、呼び捨てしていちゃいちゃしていいですか」
「まだ引っ張るの!?嫌よ」
「……香奈さんどきどきしてたくせに」
しっかりばれていたようだ。当然か。
「してないわよ。早く寝る!」
またもやばればれの嘘をついて、ジローを部屋から追い出す。
「…………香奈ちゃんの方が、まだましだわ」
さっきのジローの表情を思い出さないよう努力しながら、私は苦労して眠りについた。
****
翌朝の柴田家も、明るく騒がしく――でも不思議と疲れることはなく、楽しかった。
ジローのお母さんには『次は二人で遊びに行きましょ!』とアドレスを交換させられた。
かわいい看板犬がいる美味しいカフェがあるらしい。ぜひ行きたい。
実家訪問の翌週、ジローの部屋へ行くと、ジローは味をしめたのか事あるごとに『香奈ちゃん』と呼んできた。
そのたびに私はジローをつねったり蹴ったりしたわけだが――呼び捨てにはしてこないことに、なんとなく弱みを握られているような気分になった。
悔しいので、『柴田』と読んでやったが、結局ジローは喜ぶだけだった。
end
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