運命の人(仮) | ナノ


 

「『香奈ちゃん』とか家族にも呼ばれないから新鮮だわ……」


初対面でいきなり『香奈ちゃん』と呼ばれたときは少し面食らった。

家族や親しい友人は呼び捨てだし、あまり仲良くない人間からちゃん付けされるようなタイプではない。『水原さん』だ。

なんといっても『クールビューティー(笑)』なのだから。

そもそも『香奈ちゃん』というような顔ではない。ちゃん付けが似合うのはそれこそホノカチャンみたいな女の子だろう。


「あ、それは俺も思いました。『香奈ちゃん』て新鮮ですよね!」

ジローがぐいっと身を乗り出してきた。

柴田家の気さくさの一例、くらいの気持ちで話題にしたのだが、妙に食いつかれた。


「呼ばれ慣れてないからね」

「呼ばれ慣れてないんですかっ!」

目を輝かせるジロー。

「呼ばれたらどきどきしますかっ?」

「どきどき?いや、こそばゆいだけ」

「こそばゆいですかっ!俺はなんかどきどきします!香奈さんが同級生とか年下だったらそう呼んでたんですかねえ……へへへ、香奈ちゃんかぁ〜」


ニタニタとしながら何事かに思いを馳せるジローは、わりと気持ち悪かった。


「香奈ちゃ〜ん」

「やめなさい」

気持ち悪い顔のまま抱きついてくるジローを引き剥がす。

「香奈ちゃん冷たいですよ〜」

完全に面白がっている。

「ひとの名前で遊ぶのはやめなさいよ」

「遊んでないですよ!香奈ちゃん香奈ちゃん!ふへへへ!」

「気持ち悪い!!!!」

思っていたことを口にしてしまった。付き合ってからは極力気持ち悪いとか言わないようにしてたのに……そうでもないか。


「こそばゆいですか?」

「こそばゆいの通り越してイライラしてきた」

「酷い!香奈ちゃん!」

「ばかにしてるでしょ?」

「まさか!なら何て呼ばれたら嬉しいんですか!」

「なんで逆ギレしてるのよ。普通に今までどおりでいい」

「つまらない!」


こういうしょうもない絡み方はいつものことだが、鬱陶しい。


「水原とでも呼んどけば。私も柴田って呼ぶから」

「後退してるじゃないですか!」

「うるさいわよ、柴田」

「……悪くないですね。いや、でも苗字なんていやだ!!!」


ころころと表情を変えるジロー。私にはできない芸当だから、おもしろくてつい眺めてしまう。

なんでこんなくだらないことに必死になっているのだろうか、この男は。

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