「踏み込みが甘い」
「今のはもう少し速くかわせた。もう一度」
「今の足さばきは良かった、その感覚を忘れないように」
思った通り、カザミ将軍は兵舎前の稽古場で、兵士たちに稽古をつけていた。
まだ早朝だというのに、すでにみんな汗だくだ。もっと早起きしていれば最初から見られたのに。
真剣ながらもあたたかい眼差しに、くらくらしてしまいそうだ。
額を流れるその汗を、拭ってさしあげたい。
だが、そんなことをしては計画が台無しだ。今日の私は、カザミ将軍に姿を見られるわけにはいかない。
なんといっても、今から一日中こっそりとあとをつけ、カザミ将軍の私生活を調査するのだから!
――これは、何の罪にもならないはずだ。きっと。
物陰から様子を窺っていると、いつしか稽古は終わり、兵士たちが並んでカザミ将軍に頭を下げていた。
一人一人に何かアドバイスをしてから、カザミ将軍は兵士たちと一緒になって、服を脱いだ。
上半身裸のカザミ将軍!朝からとんでもないものを目にしてしまった。
顔を覆い隠した指の間から、カザミ将軍の姿を覗き見る。
文官のようだと言われるけれど、やっぱりその身体は逞しい。そして、肌には傷がたくさんあった。
汗を拭いて、綺麗な服に着替える。
こうしていると、他の兵士たちと変わりなく見えて、なんだか微笑ましい。
(もちろん他の兵士たちとは明らかに違う気品が、カザミ将軍の姿からは滲み出しているけれど)
カザミ将軍のこんな素敵な姿を、国一番の画家に頼んで絵画にしてもらいたいくらいだ。
今、兵士と笑い合っているカザミ将軍の姿なんて、きっと一日中眺めていても飽きないだろうに。
もしもカザミ将軍に奥様がいるなら、そのひとはカザミ将軍の全ての表情をひとりじめできるということで――想像すると胸がちくりと痛んだ。
決して、私がカザミ将軍の奥様になりたいだなんて、思っているわけではないけれど。
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