3周年リクエスト | ナノ


 

風呂で襲いたい衝動をなんとかやり過ごし、俺と恋人は並んで湯船に浸かった。


身体が温もり、少し眠くなってくる。


「お湯、熱いですねぇ……」

「ああ、そうだな」

「なんだかのぼせてきちゃいました」


恋人は、そう言って俺の肩に頭を乗せた。


「あたま、くらくらします……」


首筋に息がかかる。


「……倒れる前に、あがったらどうだ」

「んー、もうちょっとだけ……」


髪から甘い香りがする。


「おい……」

「あのね、カズマ様。すき」

「…………」


なぜ、こんな状態で、それを言うんだ。





****



計算だ。

のぼせているわけがないだろう。


くだらない茶番だ。

羨ましくなどない。

馬鹿馬鹿しい。


本当にのぼせていたらあんなに、――



「で、殿下、ご無礼いたします!リン様が湯殿でのぼせられて……!」


「!?」

思考を遮る女官の声に、立ち上がる。


マリカが、真っ赤な顔をした妻を介助しながら部屋に入ってきた。


「か、ずまさま、すみませ、……まりか、さんも」

「喋るな。容態は?」

「すぐに医師を呼んで処置は済んでおります。じっとしていればすぐによくなると」


マリカの報告に胸を撫で下ろす。


ふらふらになっている妻をベッドに横たえると、マリカは水を用意するために部屋を出ていった。



「あたま、くらくら、します……」


小説を思い出しながら、俺は妻の額に手を当てた。

「黙って寝ていろ」

「はい、すみませ……」


そうだ、本当にのぼせていたらこうなるのだ。

代わってやりたい――いや、小説の中の『リン』が代わりにのぼせればいい、と思う。


男を誘うために嘘くさい演技をするような女と妻は、断じて同じではない。

名前に騙されるところだったが、月とすっぽんだ。


もちろん、妻が風呂でのぼせれたふりをすれば俺もそれ相応の行動に出るが。

何度も言うが、決して羨ましくなどはないのだ。



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