「あ、待っ……待ってください、カズマ様っ」
「待たない。誘ったのはお前だ」
二の腕を触っていたら、当然そういうことになる。
くちづけを交わして、恋人のドレスの胸元に手を掛けたところで、彼女に制止された。
「だってあの、お風呂、入ってない、から……」
「気にしない」
「わ、私は気にしますっ!……だったらカズマ様、い、いっしょにお風呂、入りましょう?」
彼女からの魅力的な提案に、俺の手は止まった。
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「風呂だと……?」
風呂だと……?
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「あ、あんまりこっち見ないでくださいね?」
布で前を隠した恋人は、恥じらうように視線を逸らした。
「あっ、そうだ!カズマ様、背中流しますからあっち向いて座ってください」
彼女を見ていたかったが、背中を流してもらうというシチュエーションの魅力には逆らえない。
「わかった」
熱い湯を背中にかけられて、背後で彼女が石鹸を泡立てる。
「カズマ様、背中もおっきいですね。あ、こんなとこに刀傷が……いたいですか?」
ちょん、と人差し指で背中に触れる恋人。
「いや、もう痛くない」
「それならよかった。洗いますねっ」
石鹸の泡で、彼女の手が滑らかに背を這う。
ぞくりとしたが、恋人は気づいていないだろう。
無邪気に鼻唄を歌っている。
と、
「そうだ、カズマ様。何て書いたか当ててくださいっ」
恋人は、いたずらっぽく言って、ゆっくりと指で背中に文字を書いた。
「……わからないな」
二文字で簡単だったが、わざとそう答えた。
「正解を言ってくれないか?」
すると、
「カズマ様のばか、わかってるくせに……」
「…………」
拗ねたような声が耳元に響く。
後ろから抱きついてきた恋人は、『正解』を小さく囁いた。
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「ふざけるな……」
そんなシステムはうちの王宮にはない。
湯殿は別々だ。
背中を流すだと?
背中に『すき』と書く?
後ろから抱きついてくるだと?裸でか?
「くそっ……」
腹立たしいことに、風呂のシーンはまだ続くらしかった。
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