3周年リクエスト | ナノ


 

「あ、待っ……待ってください、カズマ様っ」

「待たない。誘ったのはお前だ」


二の腕を触っていたら、当然そういうことになる。


くちづけを交わして、恋人のドレスの胸元に手を掛けたところで、彼女に制止された。


「だってあの、お風呂、入ってない、から……」

「気にしない」

「わ、私は気にしますっ!……だったらカズマ様、い、いっしょにお風呂、入りましょう?」


彼女からの魅力的な提案に、俺の手は止まった。





****



「風呂だと……?」


風呂だと……?
 



****



「あ、あんまりこっち見ないでくださいね?」


布で前を隠した恋人は、恥じらうように視線を逸らした。


「あっ、そうだ!カズマ様、背中流しますからあっち向いて座ってください」


彼女を見ていたかったが、背中を流してもらうというシチュエーションの魅力には逆らえない。

「わかった」

熱い湯を背中にかけられて、背後で彼女が石鹸を泡立てる。


「カズマ様、背中もおっきいですね。あ、こんなとこに刀傷が……いたいですか?」

ちょん、と人差し指で背中に触れる恋人。

「いや、もう痛くない」

「それならよかった。洗いますねっ」


石鹸の泡で、彼女の手が滑らかに背を這う。

ぞくりとしたが、恋人は気づいていないだろう。

無邪気に鼻唄を歌っている。


と、

「そうだ、カズマ様。何て書いたか当ててくださいっ」


恋人は、いたずらっぽく言って、ゆっくりと指で背中に文字を書いた。


「……わからないな」


二文字で簡単だったが、わざとそう答えた。


「正解を言ってくれないか?」


すると、
 

「カズマ様のばか、わかってるくせに……」


「…………」


拗ねたような声が耳元に響く。

後ろから抱きついてきた恋人は、『正解』を小さく囁いた。





****



「ふざけるな……」


そんなシステムはうちの王宮にはない。

湯殿は別々だ。


背中を流すだと?

背中に『すき』と書く?

後ろから抱きついてくるだと?裸でか?


「くそっ……」


腹立たしいことに、風呂のシーンはまだ続くらしかった。




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