3周年リクエスト | ナノ


 

「カズマ様の腕、かたいですね!」


恋人が、無邪気に理性を揺さぶってくる。


「筋肉がついてます!鍛えてるからですね、かっこいいです!」


『ふたりきりになれるところに行きたい』などと言っておきながら、いざ二人になると、全く色気のない態度を取り始めた。

しかし、身体に触られる、ということは当然、本能的にぐらつくものである。

わかっていてやっているのだろうか。いや、彼女に限ってそんなことはないだろう。


「やっぱり、男のひとって全然違うんですね」

微笑んだ恋人は、自分の二の腕を、ぷに、と摘まんだ。

「私なんかぷにぷにで、恥ずかしいです」

はにかむ恋人に、なんと反応していいかわからない。

「でも、そのぶんやわらかくて気持ちいいんですよっ」


「……そうか」


恋人は、両手で俺の右手を握った。


「カズマ様、さわってみますか?」


「…………」


二の腕のやわらかさは、胸のやわらかさと同じらしい、という通説を、俺は思い出していた。





****



「はっ」
阿呆か。失笑だ。

こんなのは見え見えの計算じゃないか。

くだらない手に引っ掛かりやがって、駄目男が。


だいたいこの女も、自分から誘いたいならもっとはっきりと意思表示すればいい。回りくどい。



夕食を終えて、部屋でくつろぎながら続きを読んでいたのだが、相変わらずしょうもない展開で、呆れるばかりだった。

どうせこのままなし崩しに結ばれるに決まっている。女はこんなのが好きなのか。

やはりくだらない。



と。


「か、カズマ様っ、助けてください!」

本物の妻が、情けない顔で部屋に駆け込んできた。


「どうした」

妻は、ソファに腰かける俺の隣に座った。


「二の腕の内側を、蚊に刺されて……かゆくてかゆくて……」

「…………二の腕」

「爪でばってん付けたいんですけど、自分じゃできなくて。カズマ様、ばってん付けてくれませんか?」

「…………二の腕に」

「はい……」


妻は涙目でこちらに二の腕を差し出した。

赤く膨れ上がっている。たしかに痒いだろう。


「わかった、もう少しこっちに来い」

「はい、ありがとうございます」


刺された場所に、爪で痕を付ける。本当にこれで痒みが治まるのか不明だが、本人が望むのだからいいだろう。


「…………」

「あの、カズマ様……?なんで二の腕ぷにぷにするんですか……?」

「…………」

「あの、まさか、私、太った……?」

「…………」

「か、カズマ様ぁぁ〜〜????」


最終的に、怒った妻は俺を突き飛ばし、湯殿へと逃走したのだった。


「……くだらん」


確かに、やわらかかった。




****




prev / next
(5/11)

back/top




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -