3周年リクエスト | ナノ


 

どうにか鼻血を止め、会場に戻った俺を、恋人が心配そうに見つめた。


「殿下、だいじょうぶですか?お疲れなんじゃ……」

「大丈夫だ、疲れているわけじゃない」

「でも……、」

「お前の顔を見たら、元気になった」


冗談めいた口調で本音を言うと、恋人は目をまんまるくして、それから顔を真っ赤にした。


「で、殿下はそうやって、恥ずかしいことを平気で言う……」

「恥ずかしいことじゃない」

「恥ずかしいことですっ!」

頬を染めたまま、ポカポカと俺の胸を叩く恋人。

そんなしぐさもまた、可愛らしい。


すると、彼女は不意に手を止めた。

そして、俺の腕を掴む。


「……だから私も、がんばって恥ずかしいこと、言っていいですか……?」

「…………」

上目遣いでそう呟き、恋人は思いきり背伸びをした。

反射的に腰を屈めると、彼女の吐息が耳をくすぐる。


「はやく、ふたりきりになれるところに、いきたいです……」


小さな囁きが、鼓膜に甘く広がった。




――口実をつけて晩餐会を中座し、俺は恋人を私室に連れ込んだ。


「殿下のお部屋、広いですねえ……!」

恋人は、何を見ても新鮮そうに笑顔を見せる。


「……ソファにでも座ったらどうだ」

「ありがとうございます」

「慣れない場所で疲れただろう。くつろぐといい」

「ふふっ、ありがとうございます。優しいですね――だったら、お言葉に甘えて」


彼女は、高い位置でアップにしていた髪をするりとほどいた。

「あちこち引っ張られて、痛かったんです、この髪型」

手ぐしを通すと、そのなめらかな髪を緩くまとめ直し、低い位置で軽く結ぶ。

控えめにうなじが見え隠れして、少し気になる。だが、見ない振りをした。


「……?殿下?座らないんですか?私だけ座っててなんだか悪い、」

「二人の時は、名前で呼べ」

恋人の隣に腰を下ろしながら、言った。


「名前って……カズマ、様?」

「そうだ」







****



やむを得ない。

男の名前を自分の名前に変換したのは、やむを得ない処置だ。


妻と同じ名前の人間が違う男の名前を呼ぶなど、いくら別人といっても気分が悪い。


しかし、この男は単純すぎないか。

呆れるばかりだが、予定より早く仕事が片付いたから、まあ、続きを読んでもいい。

くだらないが。



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