甘い恋人
王族にとって『誕生日』は、記念日ではなく『行事』のようなものだ。
もちろん、私も王族である以上、今日という日は『自分のための一日』ではなかった。
儀式が執り行われ、たくさんの贈り物が届けられ、披露される。(当然その中には夫である彼からの贈り物もある)
私は集まってくれた人たちに感謝の挨拶を述べて、晩餐会では彼らをもてなす。
誕生日が『自分のもの』でないことに、疑問も不満も抱いたことはない。
故郷にいた頃と同様に、この国で迎える初めての誕生日でも、それは変わらない。
とは言え、やっぱり少しだけ――
「疲れたなあ……」
豪華に着飾ったドレスを脱ぎ、くつろいだ姿で自室のソファに身体を預けた。
そばではユキが絨毯に寝転がっている。
マリカさんの手によって、今日限定で赤い蝶ネクタイが首に巻かれていた。
「みんなが私を祝ってくれてたんだから、疲れたなんて言っちゃいけないよね」
ユキを撫でながら話しかけると、同意するように鼻を鳴らされた。
これから部屋に戻ってくるはずの彼にも、疲れた顔を見せては心配をかけてしまう。
せめてマリカさんに何か食べるものをもらっておけばよかった。もてなすばかりで食事をあまり摂っていない。
「今からでも、間に合うかなあ……」
そろりと部屋の扉を開ける。マリカさんはまだ忙しいだろうか。ちょうど通りかかったり……するわけないか。
きょろきょろと辺りを見回すけれど、誰も行き来する様子はない。
「まだみんな後片付けで大変、かな……」
食べ物を手に入れるのは諦めよう。
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