3周年リクエスト | ナノ


 

紆余曲折あって、俺は想い人――リンと恋人同士になった。


今夜は王宮での晩餐会に彼女を呼び、俺がエスコートしている。


「殿下、殿下っ、この桃とってもおいしいです」

目を輝かせ、恋人がこちらを見上げる。

「そうか、よかったな」

「はいっ!こんなにおいしい桃、初めて食べました!」


あまりに嬉しそうな彼女に、思わず頬が緩んだ。

「そんなに美味いか」


「はい!殿下も食べてみますか?」


可愛い恋人がそんなに言うのなら、と大皿に盛りつけられた桃に手を伸ばす。


と、

「あっ、待って」

「?」

恋人は、自分の皿にもうひとつ載せてある桃にフォークを突き刺した。


そして、

「はい、殿下。あーん、してください?」


「…………」




『誰か!医師を呼べ!!!!殿下が鼻血を流して倒れられた!!!!』



臣下たちの叫び声が、薄れる意識の中で遠く響いた――――





****




「くだらん」


何が『はい、あーん』だ。馬鹿馬鹿しい。

仕事の息抜きに少し例の小説を読んでみたが、余計疲れが増した気がする。


――確かに、妻と名前が同じであるせいで、多少、妙な気分になることは認める。

王子様とやらを、脳内で都合良く自分の口調に変換して読んでいることも認めよう。


だからといって、くだらないことに変わりはない。

断じてマリカの『萌え』とやらに共感はしない。


――確かに、妻が『カズマ様、あーん、してください?』などと言ってきたら、喜んで口を開けるだろうが、だから何だというのか。

俺はただ、妻が何をしようと可愛いと思っているだけで、別にこのシチュエーションを羨ましいと思っているわけではない。


つまり、くだらないのだ。


ただ、さっさとマリカに返すために、続きを読まなくてはならない。

読まずに返せば何を言われるか、考えただけで面倒だからだ。



「おい、」

俺は廊下に顔を出し、そのあたりを歩いていた女官を呼び止めた。

「今日のデザートは桃がいいと料理長に伝えろ」



時間を無駄にしてしまった。さっさと仕事に戻ろう。



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