3周年リクエスト | ナノ


 

寒空の下を、彼とは逆方向に歩き出す。


僕にないものを、いくつも持っている人。

魔法が使える。
精霊と絆を結んでいる。
魔法以外の才能にも恵まれている。
たくさんの人に好かれている。

――それから、『彼女』の『恋人』。



僕が魔法を使えればよかったのだろうか。
もっと早くに知り合っていれば?
もう少し、明るい人間だったら違ったのだろうか。


きっと、そんなことじゃなくて。


僕が彼に『劣っている』わけじゃない。

僕が彼とは『違う』だけだ。


『秋津くんは秋津くんだよ』

きっと彼女ならそう言うだろう。



それでも――だからこそと言うべきか――僕が欲しかったものを手に入れたのは彼だったのだ。



「猫好きなところは、同じなんだけどな……」




彼女に贈ったのは、

色とりどりの、宝石

――のような、キャンディ。



本物の宝石を贈るのは彼だから。

想いを形にしていいのは、彼だけだから。



僕はただ、カラフルなキャンディの詰まった小瓶に、彼女を重ねて。

そんな想いは、キャンディを口に入れればひとつずつ姿を消していって、やがてなくなってくれるから。

そんな贈り物なら、許されるだろうから。



だけど、


「『おめでとう』」


形にできないものを勝手に贈ることは、僕の自由だ。

届かなくても、気づいてもらえなくても。いくらでも贈っていい。


それなら、

「『おめでとう』、日夏さん」


毎日、贈ったって構わないじゃないか。



だって、生まれた日だけではなくて、彼女の毎日があることが、僕にはうれしくて。

毎日の繰り返しの末に、彼女はここにいて。それを思えば、特別じゃない日なんてひとつもない。

だったら、これからの彼女の毎日にだって、感謝をしたい。祝福をしたい。




特別な日を祝うのは、
気持ちごと形にして祝うのは、

彼の特権かもしれないけれど。



それなら、誕生日ではない残りすべての日を、僕は勝手に祝おう。


残りの364日も彼女にとって――僕にとって、大切な日なのだから。



「……気持ちわるいかなあ」


できの悪い小説のような思いつきに、笑いがこぼれた。




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