寒空の下を、彼とは逆方向に歩き出す。
僕にないものを、いくつも持っている人。
魔法が使える。
精霊と絆を結んでいる。
魔法以外の才能にも恵まれている。
たくさんの人に好かれている。
――それから、『彼女』の『恋人』。
僕が魔法を使えればよかったのだろうか。
もっと早くに知り合っていれば?
もう少し、明るい人間だったら違ったのだろうか。
きっと、そんなことじゃなくて。
僕が彼に『劣っている』わけじゃない。
僕が彼とは『違う』だけだ。
『秋津くんは秋津くんだよ』
きっと彼女ならそう言うだろう。
それでも――だからこそと言うべきか――僕が欲しかったものを手に入れたのは彼だったのだ。
「猫好きなところは、同じなんだけどな……」
彼女に贈ったのは、
色とりどりの、宝石
――のような、キャンディ。
本物の宝石を贈るのは彼だから。
想いを形にしていいのは、彼だけだから。
僕はただ、カラフルなキャンディの詰まった小瓶に、彼女を重ねて。
そんな想いは、キャンディを口に入れればひとつずつ姿を消していって、やがてなくなってくれるから。
そんな贈り物なら、許されるだろうから。
だけど、
「『おめでとう』」
形にできないものを勝手に贈ることは、僕の自由だ。
届かなくても、気づいてもらえなくても。いくらでも贈っていい。
それなら、
「『おめでとう』、日夏さん」
毎日、贈ったって構わないじゃないか。
だって、生まれた日だけではなくて、彼女の毎日があることが、僕にはうれしくて。
毎日の繰り返しの末に、彼女はここにいて。それを思えば、特別じゃない日なんてひとつもない。
だったら、これからの彼女の毎日にだって、感謝をしたい。祝福をしたい。
特別な日を祝うのは、
気持ちごと形にして祝うのは、
彼の特権かもしれないけれど。
それなら、誕生日ではない残りすべての日を、僕は勝手に祝おう。
残りの364日も彼女にとって――僕にとって、大切な日なのだから。
「……気持ちわるいかなあ」
できの悪い小説のような思いつきに、笑いがこぼれた。
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