「言わせて悪かったよ」
小さく笑いながら謝ると、ミリアムは少し怒ったような顔をした。
だが、相変わらず頬はまっかなままだ。
軽く頭を撫でてやってから、耳元に囁く。
「目、つむって」
ミリアムは何度も躊躇ってから、痛そうなほどにきつく、目を閉じた。
必死なその姿に吹き出してしまいそうになりながら、恋人の頬に手を添える。
ミリアムの肩がびくりと跳ねた。
顔を近づけ、自らも目を閉じようとした時――
「……ミリアム。目、つむれ」
「あ、あの、でも……」
直前で、ミリアムが目を開けたのだ。
「緊張して……あの、」
「緊張しているなら目を閉じたままでいればいいだろ。注射の時と同じだ」
「うう……は、はい」
再びぎゅっと目を閉じるミリアム。
小さく震える両肩に、手を置いた。
吐息がかかる距離まで、二人の顔が近づき――
「……ミリアム」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!でも!」
またもや直前で堪えきれなくなったように目を開けたミリアム。
さすがに俺も、彼女に恨みがましい視線を向けてしまう。
「でも、あの……何も見えないと、不安で……」
うなだれたミリアムは、小声で弁明した。
「別に取って食おうってんじゃない。だいたいそうやって往生際が悪いからいつまでたっても終わらないんだろう」
もはや色気も情緒もあったものではない。
自分がミリアムに何をしようとしているのか、わからなくなってしまいそうなやりとりである。
「め……目を開けたままじゃ、だめですか?アルバートさん……」
泣きそうな顔でミリアムが懇願する。
「嫌だ。やりづらい」
「……!」
そこまでうちひしがれた表情をすることはないだろう。呆れればいいのか落ち込めばいいのか、面白がればいいのかわからない、複雑な気分になった。
「すぐ終わる。目を閉じろ」
命令口調で言ってやると、ミリアムは眉間にしわを寄せるほどの勢いで目を閉じた。
しかも、
「……あのな、ミリアム」
唇を、きつく噛みしめたまま。
「…………」
「おい、ミリアム」
この状態でどうしろと言うのだ。
俺は、大きくため息をついた。
「……ミリアム、もういい」
「え……?」
おそるおそる、ミリアムが目を開ける。
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