「想像、できるのか?ほんとに?」
敢えて、先程までより低い声で、ミリアムに問う。
「えっ?」
その変化に、ミリアムが身構えるのがわかった。
それでもまだ、こちらの意図には気づかない。
「というか、想像だけでいいのか?」
「!?」
ここまで言ってやらないと、良くも悪くも純粋すぎるこの少女には伝わらない。
くだらない三文小説の台詞のようで、我ながらげんなりする。
だが、このチャンスを逃す手はないだろう。
この際、三文小説でも構わない。
「レモンの味だと困るのは、何でだ?」
ミリアムは、黙って首を振る。耳までまっかにして。
そんなつもりで言ったんじゃない、と顔に書いてある。
だが、そんなつもりではなかったとしても。
「素直にねだればいいのに、やけに遠回しじゃないか?」
もっと強く、ミリアムは首を振る。
「私そんな!そんなこと……ねだったりなんか、してないです!」
わかってるよ、と言ってやりたいが、今日はそういうわけにいかない。
「はじめてのキスの味とやらを確かめたい、という意味にしか取れない」
意地が悪いことを言っている。
本当にミリアムは、そんなつもりなどなかっただろう。だが、こんな相談をするなら、せめてフィリスにするべきだった。――『恋人』当人にしてしまっては、こうなることは目に見えている。
それがわからない愚かなミリアムは、こうしてまんまと俺の手に落ちた。
きっともう、逃げ場はない。
もちろん逃がす気もない。
「キスしてほしくて、こんなことを言ったのか?」
ミリアムは何度も首を振る。
涙目になっている。
決して泣かせたいわけじゃない。
だが、彼女のその表情に、満足している自分がいた。
「――じゃあ、したくないのか?」
しばらくの沈黙。
「…………」
ミリアムは、首を振った。
同じ仕草だが、今度は意味が違う。
観念したように、彼女はひたすら首を振った。
「したくなく、ないです……」
最終的にミリアムがそう答えるであろうことはわかっていた。
俺には何をされてもいいと言った手前、嫌だとは言えないだろう。だからこそ、こんな風にミリアムに決めさせるような真似はしないできたのだが。
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