3周年リクエスト | ナノ


 

猫の精霊は、家のそばまで着いてきたけれど、不意に「行くところがある」と僕から離れていった。

今日も毛並みを触ることはできなかった。



「日夏さん、今頃明日の準備でもしてるのかな」

ひとりの家で、呟く。


彼女の精霊も一緒に行くのだろうか。


せめて、あの精霊のように彼女の家族だったら、と思ったことがある。恋人よりも長く、彼女といられる立場。

けれどそれは、なんだかとても、痛そうな気がした。



「流星群、かあ……」


王都中が賑わう夜。

ひとりの時間を、いつもよりもてあましてしまう夜。


彼女にとっては特別な夜。


「今日はまだ、その日じゃなかったんだけどな」


特別な夜に『おめでとう』を言うことは、僕にはできない。

彼女にとっては何でもない日に、その言葉を送った。


「でも、喜んでもらえてよかった」



机について、紙の束をめくる。

『小説』と呼ぶにはおこがましい、文字の羅列を眺めた。


本が好きな彼女を喜ばせたくて――などと言っても結局彼女には見せられはしないだろう――書き始めた、つたない物語。


彼女のことを想うこんな夜には筆が進むと思ったのだが、何も浮かんでこなかった。


感傷的になりすぎると、『誰か』の物語は書けないものだ。



ため息をついて、立ち上がる。


夜の散歩に出掛けることにした。

なんといっても、眠れそうにない。



****



prev / next
(2/6)

back/top




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -