アンハッピーバースデー
『きれい…!』
『ほんとにありがとう秋津くん!』
好きな人に、キャンディをプレゼントした。
小さな瓶に、色とりどりの宝石が詰め込まれているようで――けれどそれは、宝石なんかではなくて、ただの飴玉だ。
食べれば消えてしまうもの。
ささやかな、気持ちだけの、贈り物。
そう、気持ちだけしか、僕には贈る権利がない。
「垂氷さんも行くんですか?明日の、日夏さんの里帰り」
「行かん。何かあれば喚ばれるだろう」
「そうですか、だったら日夏さんの誕生日プレゼントは今日渡すんですか?」
「そんなものを渡したことはない。早瀬にもだ」
「そうでしたか」
帰り道、見知った猫の精霊と行き合って、なんとなく並んで歩いた。
彼の毛並みはいつ見ても魅力的だ。
僕の想い人は、二日後に誕生日を迎える。
生まれてきたことを、祝う日。
今年は、年に一度の流星群がやってくる日と重なったらしい。
彼女は、祖父母の家でその日を過ごすのだという。
彼女の、恋人とともに。
「垂氷さんのお誕生日はいつなんですか?」
「知らん。精霊にそんなものはない」
「そうでしたか」
恋敵が契約しているこの精霊のことを、僕はけっこう好きだった。
――そう、契約者である彼のことだって、決して嫌いなわけではないのだ。
「早瀬がソワソワしていて鬱陶しいからな、ついて行っても疲れるだけだ」
精霊は、気まぐれに話を戻した。
「想像がつく、ような気がします」
どんな風に彼女と過ごそうか、とソワソワして。
何をすれば喜んでくれるだろう、とソワソワして。
何をプレゼントしよう、とソワソワして。
そして二日後、彼女の幸せな笑顔をいちばん近くで眺める。
恋人である彼だけが、その権利を持っているのだ。
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