3周年リクエスト | ナノ


 アンハッピーバースデー

『きれい…!』

『ほんとにありがとう秋津くん!』



好きな人に、キャンディをプレゼントした。


小さな瓶に、色とりどりの宝石が詰め込まれているようで――けれどそれは、宝石なんかではなくて、ただの飴玉だ。


食べれば消えてしまうもの。

ささやかな、気持ちだけの、贈り物。



そう、気持ちだけしか、僕には贈る権利がない。







「垂氷さんも行くんですか?明日の、日夏さんの里帰り」

「行かん。何かあれば喚ばれるだろう」

「そうですか、だったら日夏さんの誕生日プレゼントは今日渡すんですか?」

「そんなものを渡したことはない。早瀬にもだ」

「そうでしたか」



帰り道、見知った猫の精霊と行き合って、なんとなく並んで歩いた。

彼の毛並みはいつ見ても魅力的だ。



僕の想い人は、二日後に誕生日を迎える。

生まれてきたことを、祝う日。


今年は、年に一度の流星群がやってくる日と重なったらしい。

彼女は、祖父母の家でその日を過ごすのだという。


彼女の、恋人とともに。



「垂氷さんのお誕生日はいつなんですか?」

「知らん。精霊にそんなものはない」

「そうでしたか」



恋敵が契約しているこの精霊のことを、僕はけっこう好きだった。

――そう、契約者である彼のことだって、決して嫌いなわけではないのだ。



「早瀬がソワソワしていて鬱陶しいからな、ついて行っても疲れるだけだ」


精霊は、気まぐれに話を戻した。


「想像がつく、ような気がします」



どんな風に彼女と過ごそうか、とソワソワして。

何をすれば喜んでくれるだろう、とソワソワして。

何をプレゼントしよう、とソワソワして。


そして二日後、彼女の幸せな笑顔をいちばん近くで眺める。



恋人である彼だけが、その権利を持っているのだ。



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