「あっ、えっ!?」
「食わないのか」
「……」
彼は真顔のまま、からかうでもなく、フォークを持つ手を引くこともない。
それは確かに、もっと恥ずかしいようなことだってしているわけだけれど、こういう不意打ちにはやっぱり抵抗がある。
かと言って、このまま拒否していてはいつまでたってもケーキを食べることができない。
彼はこの方法でないとケーキを食べることを許してくれない気がするから。
「あの……、あまりこっち、見ないでください」
「見ていない」
「見てるじゃないですかっ!……もうっ、わかりました!いただきますっ!」
勢いに任せて彼の差し出すケーキにかぶりつく。王族としてはあまり誉められた食べ方ではないけれど。
「っ!おいしい!」
もちろん今日少しだけ食べられた豪華なケーキもとてもおいしかったけれど、マリカさんたちが作ってくれたこのケーキは、あったかい味がした。
「明日、皆さんにお礼を言っておきますね!カズマ様も、ありがとうございます!」
「ああ」
答えながら、彼はさらにケーキを差し出してくる。
一口で終わりではなかったらしい。
「…………いただきます」
おいしさの誘惑に負けて、さっきよりもためらいなく、ケーキを口に入れてしまった。
その間にも、彼はさらに一切れ、ケーキをフォークに突き刺している。
「ま、まだ、それですか……?」
「誕生日だからな」
「か、関係ないと思います!」
「妻が誕生日なんだ。甘やかしたいだろう、普通」
相変わらず、恥ずかしいことをさらりと言えるひとだ、彼は。
「い、いつもじゅうぶん甘やかされてる気が……」
「そうか、例えばどんな風に?」
明らかにからかっている。そして、変な方向に話が進みそうな、嫌な予感がする。
「そ、そんなことより!カズマ様!カズマ様はこのケーキ食べましたっ?せっかくカズマ様が作ってくれたんだから自分でも食べてみたいですよねっ?ねっ?すっごくおいしかったからカズマ様も絶対気に入りますよっ!」
話を逸らし、かつ恥ずかしい状態からも逃れる名案を、私は思いついた。
「疲れには甘いものがいいですから!」
しかし、
「それは後でもらうからいい」
「え、でも、」
「黙って口を開けろ」
命令口調に圧されてもう一口。
恥ずかしさは消えないけれど、『甘やかされている』状況に、わずかながら心地よさを感じ始めてしまった。
「えと、あの、カズマ様が載せてくれたいちごがあるとこ、食べたいです……」
一応、右手を出しながら申し出てみる。
しかし当然ながら、その手にフォークが渡されることはなかった。
「わっ!」
代わりに彼の大きな左手が重ねられた。
右手は、何度目かのケーキを私の口に運ぶ。
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