「そういえば、カズマ様、遅いな……」
ソファに再び腰を下ろし、ふと気づく。
着替えに時間がかかる私の方が部屋に戻るのは遅くなるかと思っていたのに、彼はまだ戻っていなかったし、いまだに戻る気配もない。
何か急用でもできたのだろうか。当たり前だけれど私の誕生日だからといって世の中の動きが止まるわけではない。
必要なら呼ばれるだろうし、ここはおとなしく待っていた方がいいだろう。
日付が変わって誕生日が終わるまでに、少しでも彼とゆっくりする時間があれば嬉しいのだけれど。
「寝てしまわないようにしないとね」
窮屈そうだった愛犬の蝶ネクタイを外しながら、私は呟いた。
――それからしばらく後。
決意もむなしくまどろみかけていた私は、突然のノックの音で我に返った。
「は、はい!」
誰だろう。ノックをするということは、マリカさんだろうか。
すると、
「悪い、開けてくれ。両手が塞がってる」
意外なことに、声の主は彼だった。この部屋は彼の部屋なのだから普段ノックなんてすることはもちろんない。
「えっ?は、はい、今開けます!」
何事だろう、と慌ててドアを開ける。
そこに立っていた彼の手元には――
「……カズマ様、それ、どうしたんですか?」
一人分のケーキと、二人分の紅茶。
「腹が減っているんじゃないかと思って……というのは、理由のひとつだが」
彼はすたすたと部屋の中へ入っていき、テーブルにケーキと紅茶を置いた。
「食え。特別に作らせた。というか俺も手伝った。――クリームと苺を載せただけだが」
「ええっ!?」
確かに今日は私の誕生日だからこのケーキを私のために、というのはわかるけれど、特別に作らせたなんて申し訳ないし彼が苺を載せるところなんて想像できないし、とにかく私は混乱した。
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