ファントム・ペイン
姉は、ぼくより三年早く、生まれたらしい。
ぼくは、この姉の、弟らしい。
姉とぼくは、血が繋がっていないらしい。
そしてぼくは、姉のことを、愛している、らしい。
愛しているという感情が、ぼくの理解している通りのものだとしたら、それは、姉に抱いてはいけないものだ。
いや、禁じなくても、普通はそんな感情を、抱かないようになっているのだ、人間は。
だから、ぼくは最初、自分がおかしくなったのだろうと考えた。
消去してしまおうと、考えた。この感情を。
そんな時、ぼくだけが、この家族と血の繋がりがないことを知った。
両親を問い詰めると、姉が六歳の頃、三歳のぼくをこの家の養子にしたのだと、彼らは答えた。
それを聞いて、つじつまが合った。
それは、数式が完成した瞬間に、似ていた。
ぼくは姉を愛している。
実の姉を愛することは、間違っている。
実の姉でなければ、間違っていない。
姉は実の姉ではなかった。
つまり、赤の他人だからこそ、ぼくは姉を愛した。
ぼくは、どこもおかしくはない。
「姉さんが、好きだよ」
伝えると、姉さんは、顔を歪めた。
「何を、言っているの」
ぼくは、答えた。
「ぼくは、姉さんがぼくの姉さんだからじゃなくて、姉さんが姉さん自身だから、好きなんだよ」
姉さんは、俯いた。
「おかしいわ」
ぼくは、答えた。
「おかしくなんかないよ。血が繋がっていないんだから」
姉さんは、びくりと肩を震わせた。
「聞いたの」
ぼくは、答えた。
「うん。だから、ぼくが姉さんを好きなことは、何もおかしくないんだ。だから、姉さんの気持ちを、聞かせてほしいんだ」
姉さんは、目に涙を浮かべた。
「おかしいのよ。おかしいの。あなたがそう、思うことが、おかしいのよ」
だってあなたは、と姉さんは言った。
その先を、覚えていない。
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