『……』
俺が何も言えずにいると、少女はなぜか、俺のシャツのボタンをひとつひとつ外し始めた。
『何してるんだ』
全てのボタンを外してから、少女は顔を上げた。
『交尾の準備です』
そのまま少女は俺の前に屈み込む。
赤く腫れたままの腹部に、冷たい舌が這った。
『恋人なら、交尾、しますよね?』
唇を舌でぺろりと拭った少女から、俺は目が離せなくなった。
『……みすず、縄を解いてくれないと、できない』
そう言うと、少女――みすずは嬉しそうに笑い、片手で縄を引きちぎった。
『一目惚れだったんです』と、みすずは言っていた。
結局のところ俺も一―この理不尽で美しい少女に、一目惚れしていたのかもしれない。
****
それからの毎日は、本当にみすずのことばかりだった。
大学の友人たちは、俺に彼女ができたことを羨み、自分たちにも女を紹介しろとせがんできた。
しかしみすずは狼だ。それは無理というものだった。
意外にも、みすずは常に俺の隣にいるというわけではなかった。
しかし、一人で行動しているときも常にみすずの気配のようなものを感じていた。
ある日、風呂から上がり、何の気なしにリビングを覗くと、テーブルに山積みにされた大量の写真を眺めて息を荒くしているみすずがいた。
『……何してるんだ』
『はあはあ……あっ、義高さん!ばれちゃった!』
口元を拭って絶望的な顔をするみすず。
よく見ると全ての写真に俺が写っていた。しかもアングル的に、
『隠し撮りじゃないか』
『えへへ』
『えへへじゃない。言ってくれたら写真くらい構わないのに』
『隠し撮りだから興奮するんです!』
かわいらしい顔から変態のような台詞が繰り出され、俺は少々げんなりする。
しかし、
『だけどやっぱり生身の義高さんがいちばん興奮します!』
大量の写真が広げられたテーブルに押し倒され、結局は俺も変態だと思い知るはめになるのだった。
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