そう言いながらも、俺の心の奥に、微かな違和感が宿った。
真っ当とはとても言えない、何か。
『だって義高さん、外に出したらよその女に取られちゃうかもしれないでしょう?悪い奴らにからまれちゃうかもしれないし。それから猫に引っ掻かれて怪我するかもしれないし、犯罪に巻き込まれるかもしれないし。――私は義高さんが好きだから、他の人がちょっとでも義高さんに関わるのが嫌なんです。他の人のせいで義高さんがちょっとでも変わっちゃうのが嫌なんです。傷つけられるのも』
危険な発言に戦慄が走る――はずなのに、なぜかそれだけではない感情が、確かに胸を過ぎった。
『運動しなきゃ病気になる』
『そしたら私が看病しますから』
『運動しなきゃすぐ死ぬ』
『えっ!それはだめです!』
『二人分の食費を稼ぐためにも大学行ってバイトして就職しないと』
『食事なら今日たくさん兎を狩ってきましたよ』
『おれはお前とは違う。生肉を食らう趣味はない。それにうさぎ肉の調理方法なんか知らない。金払って買うものしか食えない』
俺がいま試みているこれは、拒絶ではない、ということに気付く。
なぜ俺は折り合いをつけようとしている――この家で暮らしていくことを前提として。
しかし、俺はそんな自分自身のことも、深く追及しないことにした。
『わかりました。だったら義高さんはこの家から今まで通りに学校に行ってバイトに行ってください。ただしそのときは常に私も一緒に行動します』
強引な少女が、逆らえば噛み殺されかねない危険な少女が、ノーと言うことを許してくれそうにないから――そう、きっとそのせいだ。
『……彼女とでも言えば、不審には思われないか』
広い大学だ。講義に外部の人間が混ざっていたところで咎められはしないし、四六時中一緒に行動しているカップルもそれほど珍しくはない。
バイト先のことは――また後で考えよう。
俺の呟きを聞いた少女は、瞳を輝かせた。
『彼女!それって私を恋人にしてくれるってことですか!?』
『……わかった、もうそれでいい』
委ねてしまえば楽になれる――いや、委ねてしまいたいのか。
諦めなのか、現実逃避なのか、自発的な感情なのか、よくわからないまま。
『嬉しい!夢が叶いました!』
少女は、これ以上ないくらいに幸せそうに笑った。
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