「で?具体的にどうやるんだ?駆け落ちと言っても海の上じゃあ……」
「そうね、どうしようかしら。周りが見ている前で仲睦まじい振りをしてしまっては、お互い後々の体裁が悪いでしょう?父様にだけわかるように恋人のふりをしてくれたら一番いいのだけど」
高遠の問い掛けに対し、マリーは頬に人差し指を当てて答えた。
「難しい注文だな。しかも無計画か」
「父様に交際宣言をするところしか思い浮かべていなかったわ」
「だったらさっさとすればいいんじゃないか?」
なかば呆れた表情で高遠が言うと、マリーはぶんぶんと首を振った。
「私たちまだ初対面じゃない!私の態度で狂言だってすぐばれちゃうわ!父様は鋭いもの」
「君がわかりやすいんだろう」
「初対面なのにどうしてわかるのよ!失礼ね!」
「さっきから君の考えてることはすぐに顔に出てる。――つまり俺たちはもっと仲良くならないといけないわけだ」
マリーは頷く。
「そうよ、父様を騙せるくらいにね」
『考えがすぐに顔に出る』という指摘には特に反応しない。それよりも『計画』に夢中なのだろうと思われた。
「ちょっとした悪戯の為に無駄に綿密な下準備が必要なんだな、全く」
高遠が苦笑すると、マリーは肩を落とし俯いた。
「……嫌、かしら。演技でも私と仲良くなるのは」
「いや、というか演技じゃ駄目なんだろう?」
「だったらなおさら、嫌……?何も恋人のように仲良くなってくれとは言わないけれど……私は純粋に貴方ともっと仲良くなってみたいわ。だから相手を貴方に決めたのだし。でも、貴方が嫌なら……」
高遠も欧米人に比べれば小柄だが、それよりももっと背の低いマリーが彼をおずおずと見上げると、まるで上目遣いのようなかっこうになった。
「いや、ただ君の無駄すぎる行動力に感心してるだけで、むしろ役得だと思ってるくらいだから気にしなくていい。さっきも言ったとおり暇なんだ」
だから、高遠は正直に白状した。
「『感心』?皮肉ね!?」
しかし、マリーは別のところが気に障ったらしい。
「まさか。そうだ、なんなら本当に恋人のように仲良くしても構わないが?」
からかうようにマリーの顔を覗き込むと、マリーははたと黙り込んだ。
「――――」
最低と罵られるか、羞恥にうち震えるか。高遠が冗談だと撤回しようとした時。
「それって素敵!ナイスアイディアだわ!」
実に嬉しそうな顔で飛びついてきたマリーの言葉に、高遠は耳を疑った。
「何だって?」
「私、恋なんてろくにしたことがないの。だって小さい頃から父様のコレクションしてた日本の骨董に夢中だったから。男の方を喜ばせる方法なんて全然知らないわ。それでは結婚相手の方に申し訳ないでしょう?」
「……君の結婚相手は君がそうやって好きなことに目を輝かせてるだけで喜ぶと思うぞ」
「お世辞はいいのよ。それともまた何かの皮肉かしら?」
「変なところでうたぐり深いな」
「とにかく!せっかくのチャンスだもの!貴方に男女の関係についていろいろレッスンしてもらいながら父様を騙すタイミングをはかるわ!」
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