リクエスト | ナノ


 

瞳を開いた少女の眼下には、七色の光が広がっていた。


「わああ……!きれい!」



観覧車は煌めきながらゆっくりと回り、ジェットコースターは風を切って走る。

コーヒーカップはミルクをかきまぜるようにくるりくるりと動いているし、パレードの一行はまるで光の川ようだ。



そこに人はひとりもいないけれど、少女には、そこにあった『夢』が確かに感じられた。



そして、それを夜空から眺めていると、夢のつまった宝石箱を手に入れたような、とくべつな気持ちになった。




「メリーゴーランドに、乗りたかったですか?」



宝石箱の上空を旋回するように駆けながら、白馬が少女に尋ねた。



「いいえ、わたしはあなたにのりたかったの。それにぜったい、メリーゴーランドよりこちらのほうがすてきだわ!」




くすりと笑った白馬は、大きく空中をひと蹴りした。


すると、七色の宝石箱は、ぐっと小さくなった。




「今夜、世界はぜんぶ、あなたのものです」




もう一度、白馬が空を蹴ると、そこには濃紺の海が広がっていた。


潮の香りは、少女にとって馴染みのないもので、彼女は大きく息を吸った。



次に見えた景色は、力強く華やかな、ネオンに彩られた都会の街。


眠らない街は、空高くから見下ろすと、熱気のかたまりのようだった。



蝙蝠を追い越して、広がる森の上空も駆けた。


畏れを抱くような深さと、生きているものたちの静かで確かな息遣いを、少女は同時に感じた。




どこを駆けても、満月は少女と白馬を追い掛けてきた。


そのことに、少女はひどく安心していた。





「いつもいつも、幸せそうに私のもとへ来てくれたあなたのお母さんに、私は恋をしていたのかもしれません」



湖の上を通り過ぎながら、白馬が小さく呟いた。



満月を、水面がまるで鏡のように映し出している。

それはまるで、双子の満月を見ているようだった。




「けれど、あなたは連れ出してくれた。こんなにも広い世界に、私を」



変わっていく景色をぼんやりと眺めながら、少女は夢ごこちでその声を聞いていた。



「あなたに出逢えて、本当によかった」




はじめに願ったのはわたしなのに、どうして彼がこんなにも嬉しそうなのだろうか。


それともわたしが願うことが、彼の願いを叶えることだったのだろうか。



少女は、幼い心で、そんなことを思った。








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