「そうですね。では行きましょうか、一緒に」
「いっしょに?」
「私の背に乗ってみたいと、願ってくれたのでしょう?」
白馬は、膝を折り、身を屈めた。
「あなたを乗せて駆けてみたい、と、私は願ったのです」
傅くような白馬のその姿に、少女は瞳を輝かせた。
「いいの?わたし、あなたの背中にのってもいいの?」
「もちろん。そのために私はここにいるのですから」
少女は、恐る恐る白馬の背に跨がった。
本物の馬どころか、メリーゴーランドにも――車以外の乗り物にはいまだかつて乗ったことのない少女である。
思いがけない形で夢が叶った喜びに、期待と不安が入り混じる。
やわらかそうなたてがみをひと撫ですると、しかしその不安はさらさらと消えていった。
「しっかりつかまっていてください」
そう言った白馬が、蹄で地面を蹴ると、少女の身体はふわりと宙に浮かんだ。
もちろん、白馬ごと。
「おうまさん、空をとべるの!?」
「私には羽根はありません。ただ、駆けているだけです」
「ふしぎ……!」
「私とあなたがこうして触れ合えているのですから、それ以上に何も不思議なことなどありませんよ」
そうなのかもしれない、と少女は思った。
蹄の音は響かないが、白馬がその脚を動かすたびに、少女の身体は地面から離れ空へと近づいていった。
美しく力強い背に跨がっていると、落ちるかもしれないなどという不安は少女の心にひとかけらも浮かびはしなかった。
先程まで自分たちがいた場所を見下ろしてみる。
それは、生きてはいない場所――少女の眼にはそんな風に映った。
「願ってごらんなさい」
白馬が優しく少女を促した。
「ねがう?」
「あなたの願いはすべて叶いますよ」
少女は瞳を閉じ、願った。
わたしもこの場所で、夢を見てみたいと。
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