――待て。
とんでもない話の飛躍に、俺は思わず絶句した。
すると、少女は楽しそうに言葉を続けた。
『最初の質問の答えがまだでしたよね。義高さんを私のものにするために、縛ってるんです』
『わけがわからないんだが』
やっと言葉を取り戻したものの、ろくな発言はできなかった。
わけがわからない、本当に。
『心配しないでください。義高さんの部屋にあった荷物はぜんぶこっちに移動させました』
『!?それ、いろいろと犯罪……』
『この家をくれた顔に傷があって指が一本ない親切な男の人にお願いしたら、仲間をたくさん引き連れて手伝ってくれました』
『……よく無事だったな』
『金払えとかなんとか言われたので噛み付いたら泣いて逃げていきました。あの腕、くっつくといいんですけど』
『……』
背筋に悪寒が走ったのだが、少女がこんなことをした目的がいまだに全くわからない。
すると、少女はにこりと笑った。
『人間には、とっても素敵な文化がありますね』
またも唐突に話が飛んだものだから、俺は頭上に疑問符を浮かべることしかできない。
『飼育、っていうんですよね?好きだなって思った生き物をずっとそばに置いて可愛がる』
そう言ってうっとりする少女。俺は嫌な予感に顔を歪めた。
『それで、好き同士なら恋人になれる。つまり私、義高さんを恋人にするために、この家で飼育しようと思って。いかがですか?』
『いかがですかじゃない!!!それは拉致監禁という立派な犯罪だ!!!』
俺は久しぶりに、こんなに大きな声を出した。
『合意の上なら犯罪じゃないんですよね?だから義高さんがうんと言ってくれたらいいんです』
『言わないだろ普通』
『どうしてですか?何もしなくていいんですよ?義高さんはただ、この部屋から一歩も出ずに日がな一日暮らしていけばいいんですよ?ええと、室内飼い?』
『何が楽しくて人間が狼に室内飼いされなくちゃならないんだ』
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