少女の透明な声が、無色の世界に響く。
そのとき。
満月がひときわまばゆく輝いたように思えて、少女は夜空を振り仰いだ。
しかし、夜空は変わらず、同じ夜空のままである。
首を傾げる少女。
気のせいだと思い直して、再びメリーゴーランドの方を向いた少女は「あっ」と声をあげた。
先程までそこにいた、白い木馬が姿を消しているのである。
機械仕掛けの馬は、もはや動くことなどできないはず。
ましてや、血の通わぬその身体は、自身を貫く鉄の棒から逃れられるわけがないのだ。
少女がポカンと口を開けていると、背中にふわりと、声が降った。
「碧い瞳のお嬢さん」
驚いて振り返った少女の目に飛び込んできたたのは――
「……おうまさん?」
溜め息が出るほど美しい純白の、一頭の馬。
そう、生きた馬が、少女を穏やかな眼で見下ろしていたのである。
「私に乗ってみたいと、言ってくださいましたね」
馬が言葉を喋っても、少女は不思議に思わなかった。
まるで、そうしているのが自然なことのように、その馬は言葉を紡いでいたからだ。
そして、少女は気付く。
「あなた、ここにいた、メリーゴーランドのおうまさんなのね?」
白馬は、こくりと頷いた。
「ほんとうは、いきているおうまさんだったの?」
白馬は、今度は首を振った。
「いいえ、私は木で作られた馬です。しかし、今夜は三度目の満月ですから」
少女は、毎晩欠かさずここへ来ていた。
初めて屋敷を抜け出す日に満月の夜を選んだのは、真っ暗闇が怖かったから。
それから、月が満ち欠けを繰り返す夜空の下で、少女はひたすら木馬を見つめ続けていたのだ。
「わたしが、あなたにのりたいっておねがいしたから?」
少女が尋ねると、白馬は再び首を振った。
「願ったのは私です」
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