店員は、ミリアムから僅かばかりの小銭を受け取ると、ミリアムが指差していた花を一輪、バケツから抜き取った。
丁寧に包み、リボンをかける。
包装にも代金がかかるのではないだろうか。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべたミリアムは、今度こそ俺の言い付けなど忘れ、勢いよく走り去っていった。
今日何度目かのため息をついた俺は、花屋に足を向けた。
「いらっしゃいませ」
笑顔でこちらを見た店員の手に、一枚の札を握らせる。
「お釣りはいらない」
それだけ言って、ミリアムの先回りをすべく、俺も駆け出した。
本当に、世話の焼ける『商品』だ。
****
ステラが腕を振るった誕生日の晩餐は、お世辞抜きに美味しかった。
もちろんステラの料理がまずかったことなどないのだが。
ミリアムは、目を輝かせてうっとりと料理を見つめ続けていたが、ステラに促されてやっと口をつけた。
一口食べた時のミリアムの顔があまりにも幸せそうで、俺は吹き出してしまった。
ステラの協力のもとミリアムが作ったケーキは、まあそれなりの味だったが――久しぶりに食べたせいかケーキも悪くないなと思った。
ミリアムが真剣な面持ちで俺に手渡した一輪の花は、居間の花瓶に飾られている。
俺が喜ぶか不安だったのだろうが、何もあんなに思い詰めた表情で渡すことはないだろう、と――花を見るたび思い出しては、俺は笑顔になってしまっている。
end
prev / next
(5/6)