「ケーキを食べたことがない奴に、どのケーキがうまいかわかるのか?」
「……でも……」
しゅんと俯くミリアムを見かねたらしいステラが、口を挟んだ。
「でしたら私が買ってまいりますわ」
しかしミリアムはその方法もお気に召さなかったようだ。
「ステラさんがいなくなったらごちそうをつくるひとがいなくなるからだめです!」
「だけどお嬢さん……」
聞き分けのないミリアムに、俺は眉を潜める。
「ミリアム、一人で出掛けるのは絶対に駄目だといつも言ってるだろう?言い付けを守れないのか?」
わざと強い言葉で言ってやったのだが、それでもミリアムは大きく首を振った。
「きょうはとくべつです!おねがいしますアルバートさん!わたし、アルバートさんにうれしくなってほしいんです!」
泣きそうな目でしがみつかれると、こちらが悪いことをしているような気分になる。
「……」
「でしたらお嬢さん、ケーキを作りましょう!私の友人の店で材料を買ってきてくださいな。よくご一緒してるから場所はご存知でしょう?」
ステラが再び提案をする。
「ケーキを作るには、この家にあるものだけじゃちょっと足りないんです。必要なものを私が書き出しますから、店主にその紙を見せてくださいな。お金も、ちょうど足りる分だけ用意しますから」
「はい!わたし、がんばっておつかいしてきます!」
「……」
見知らぬケーキ屋に行かせるよりは安全かもしれないが、しかし――
と、俺の表情に気付いたステラが、こっそりと耳打ちをした。
「私が後を着いて行きますから」
「……いや、帰って料理が完成していなかったらあやしまれる。俺が行こう」
俺は結局、ミリアムの『初めてのおつかい』に付き合うことになってしまったのだった。
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