『ここはどこだ――――痛い』
目を覚ますと、俺は見知らぬ家にいた。
先程、少女にボディブローを喰らった腹部がまだズキズキと痛む。
しかし痛いのは腹だけではなかった。
『縛られてる……』
両手首と足首が縄で拘束されていたのだ。
安っぽい刑事ドラマでありがちな、間抜けな状態だ。さるぐつわは噛まされていないが、助けを求めて叫び声を上げる気には、何故かならなかった。
しかし、解放してほしい。痛い。
周囲を見回すが、やはり全く知らない場所だ。一軒家のリビングらしいことはわかるのだが。
と、小さな足音がして、さっきの少女がひょいと顔を覗かせた。
『あっ、目が覚めたんですね!』
ぱっと顔を明るくした少女は、こちらに駆け寄り、俺の前にしゃがみ込んだ。
さすがに俺は顔をしかめた。
『殴って気絶させたのはお前だ。目が覚めたんですね、じゃないだろ』
そして、
『何で俺は縛られてるんだ。ここはどこだ。さっきのは一体何だ』
聞きたいことがたくさんあったから、まとめてそれを少女にぶつける。
『ここは私の家です。さっきのは、そのまんま。私は狼なんです。昔、怪我をして群れからはぐれて死にかけた時に義高さんが手当てしてくれてごはんをくれたから、そのおかげで生きてます』
およそ常識的とは言えないことを、少女はあっさりと口にした。
『なんで狼なのに人間なんだ』
『義高さんに会いたくて、頑張りました!』
頑張って獣が人間になれるのか。
しかしあえて深くは追及しなかった。この目で、人間が狼に――そしてまた人間になるところを見てしまったのだから。
『……怪我した子犬を一晩面倒見たことはあったな』
狼人間のしくみはさておき、少女の言葉に俺の記憶は微かに甦った。
『それですよ!一緒のベッドで寝たんです!犬じゃなくて狼ですけど』
少女は嬉しそうに身を乗り出した。
近くで見ると、犬歯を思わせる八重歯が僅かにのぞいていて、かわいらしい。
『思い出してきた。あれ、狼だったのか』
『はい!義高さんは私の命の恩人なんです!だから私のものになってください!』
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