と、その時。
「サーシャ、めずらしい菓子を貰ったから一緒に食――――」
ノックもせずに部屋に入ってきたハジャルが、ベッドの端に腰掛けたサーシャとベッドの上にあぐらをかいた俺を見て、ぴしりと硬直した。
そして、
「邪魔をした!!!」
ものすごい勢いで扉が閉められた。
「いやおい!馬鹿か!待てよ!!!」
俺はベッドから飛びおりて、慌てて扉を開ける。
「『邪魔をした』って何だ!どんな誤解してやがる!ていうか何であんたが逃げるんだ!」
既に回れ右をして駆け出そうとしていた主の腕を掴む。
「い、いや、そなたたちが仲が良いのはわかっている……だからなんというか、つい、遠慮を」
「遠慮してる場合か!むしろ妬けよ!」
もちろん妬かせるためにサーシャに付き合っていたわけではないが、花嫁になる女が他の男と二人きり、という状況を目撃して『邪魔をした』はないだろう。
主の花嫁と二人きりになった俺も軽率といえばそうかもしれないが、だったらなおさらだ。
あまりにずれている主に、俺は頭痛がしてきそうだった。――いや、ずれているというか意気地無しだ。
しかし、俺の言葉を聞いたハジャルは、戸惑うように言った。
「やきもちを、妬いていいのか」
「はあっ!?」
「サーシャはまだ正式な花嫁ではない。私に妬く資格はあるのか?」
「馬鹿か!聞くな!あんたはサーシャが好きなんだろうが!サーシャが他の男といて悔しくねーのかよ!」
ダメすぎて腹が立ってきた。
こんなんでサーシャとうまくやれるのか。結婚したらその時、俺はもういないというのに。
叫びすぎて肩で息をしていると、
「……なるほど」
呟いたハジャルが、顔を上げた。
「……?おい、」
なんか妙に、目が据わってやがる。
ハジャルは、ベッドに腰掛けたままポカンとしているサーシャの元へ歩み寄った。
「それならば――」
真意の読めない目で、サーシャを見下ろすハジャル。
そして、
「きゃあああっ!!??」
「サーシャ、こちらへ来い」
「ここ、来いも何もっ……!」
サーシャを軽々と抱き上げたハジャルは、そのままさっさと部屋を出て行った。
悲鳴のようなサーシャの声が、だんだん遠ざかっていく。
「……あいつ、意外と腕力あったんだな」
取り残された俺は、本当にどうでもいいことを、呟いた。
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