指定された時間に東公園に行くと、小柄な少女がそこにいた。
銀色の長い髪に金色の瞳――外国人かと思ったが、顔立ちはどう見ても日本人だった。
『人間に興味がない』俺でも可愛いと思ってしまうくらいに、魅力的な少女だ。
『……来てくれたっ!』
少女は、心底嬉しそうにそう言ってから、こちらに駆け寄って来た。
俺は思わず後ずさる。
『義高さん、私、みすずって言います!ちっちゃい頃あなたに命を助けてもらった時から、ずっとずっと、好きでした!私のものになってください!』
キラキラした瞳でこちらを見上げた少女は、そう叫んだ。
『……助けた、って、心当たりがないんだけど』
『私のものになってください』という女子らしからぬ告白の言葉はとりあえず聞かなかったことにして、俺はまず疑問を口にした。
待ち合わせの時間までずっと考えていたが思い出せなかったし、これだけ可愛い女の子の命を助けたのならさすがの俺でも覚えているはずだ。
すると、少女はいたずらっぽく笑った。
『この姿を見ても、ですか?』
その瞬間。
少女の周りにだけごうっと風が吹き荒れ、彼女の姿が霞んで見えた。
同時に巻き上がった砂埃に俺は一瞬目を閉じる。
そして、再び目を開けた俺の目の前には――
銀色の毛並みに金色の瞳を持つ、美しい狼の姿があった。
あまりの美しさに目を奪われ、俺はしばらく黙り込む。とにかく綺麗だ、と思った。
しかし。
『悪い。全く心当たりがない』
俺がきっぱりと言うと、狼から少女の声がした。
『うそ!?』
違和感が物凄い。あまりにも見た目と声がそぐわないのだ。
つまり、先程の少女が狼になったということで、そのことには正直腰を抜かすほどびっくりしているけれど、
『心当たりはない』
俺が三度目のその言葉を告げると、再び風が巻き起こり、そこにはさっきの少女が戻って来ていた。
少女はわなわなと唇を震わせると、
『この……薄情者おおおーーー!!!!』
『ぐほおっ!!??』
鳩尾に尋常ではない衝撃があったと思うと、次の瞬間に俺は意識を失っていた。
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