夜は好き。
みんな平等に、隠してくれるから。
それでも星の光が、どこか励ますみたいに微かに照らしてくれるから。
家族もないし、お金もない。
花を売っては食いつなぐ毎日。
だけど、卑屈にはなりたくないし、できるだけ生きることを楽しみたい。
そう思っているせいか、よく『サーシャは悩みがなさそうだ』と、周りにからかわれる。
この町の人たちは、あたたかい。
だからあたしは、あたしのままでいられるのだろう。
それでも、いちばん『あたし』でいられるのは、町ごとすっぽり覆った夜空を、眺めている時間。
一人でいるから言葉も何もいらなくて、夜はそれを許してくれるから――夜があってくれてよかったと思う。
明日からも生きていたい、素直にそう思えるのは、この時間があるから。
「……きれい」
あたしは、家の窓からぼんやりと、濃紺の空を仰いだ。
今日は少しだけ、明るい気がする。
少しだけ、落ち着かないのはそのせいなのだろうか。
と。
「……シャ……サーシャ!!!」
夜の静寂を切り裂く乱暴な声が、あたしの名前を呼んだ。
「だれ?」
窓から通りを覗き込んでも、誰もいない。
少し警戒して部屋を振り返っても、何の気配もない。
声は、上から聞こえる気がする。
でも、まさか。
恐る恐る、再び空を見上げた。
すると、
「……やっとこっち見たな!」
なぜか嬉しそうな笑顔を浮かべた褐色の肌の少年が――――
「飛んでる!!??」
彼の背中には真っ白な羽根が生えていて、その身体はありえないことに宙に浮いている。
仰天するあたしをよそに、褐色の少年は一人で何か呟いていた。
「ほんとに一年ぴったりで姿が見えるようになるんだな。声もやっと届いたし。さすがカミサマの世界は都合よくできてんなー」
「あのー、すみません、あなた誰?」
とりあえず言葉が通じるようなので、あたしは少年に話しかけてみることにした。
「何であたしの名前を知ってるの?」
すると、少年は面倒くさそうに頭を掻いた。
「あー、俺の名前はヨタカ。何でお前の名前を知ってるかって、それはだな……」
とん、と窓枠に足を掛けた彼は、至近距離で私の顔に人差し指を向けた。
「お前が花嫁だからだ」
「はあああっ!?誰の!?」
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