「だからこそ、私たちは『花嫁の使い』を選ぶのだ。神の名代として花嫁を迎えに行く者を、最も信頼する天使の中から」
ハジャルが真顔で言った言葉に、俺は耳を疑った。
「はああああっ!!!??」
「そなた、また言葉が不自由に、」
「ボケてる場合か!あんた頭おかしいだろ!俺はできそこないの天使だぞ!?何考えてんだ!」
「しかしヨタカ、そなたが生まれ変わるにはこの方法しかないぞ?そなたはここに来てからひとつも徳を積めてはいないではないか」
「うるせー!!!だからってお前……そんな馬鹿なことしてますます周りから白い目で……」
「私を心配してくれるのか。ありがとう」
「ばかやろー!!!ますます居づらくなるっつってんだよ!!!」
「それは問題ないだろう。『花嫁の使い』をこなせば人間に生まれ変われるのだから、ここに居続ける必要はない」
「だからって、」
「それに私はもう既に、そなたに命じてしまった。覆すことはかなわん」
「ふざけんなおい!!!!」
こいつはわかっているのだろうか。
宮殿の者たちはそれは盲目的にこの主を慕っているが、外の奴らもそうだというわけではない。
地獄行きの人間を拾った酔狂な神だと、笑う奴もたくさんいる。
だからこそ、天使長たちの俺に対する風当たりはあんなにも強いのだ。
――いや、わかっているのだろう。こいつはきっと。
だからこそ、俺を『花嫁の使い』なんてものにしやがったんだ。
そして『最も信頼する天使』、その言葉に嘘がないことが、俺にはわかってしまう。それが、心を掻き乱す。
「……結婚がぶち壊しになって後悔するのはお前だぞ」
「結婚がぶち壊しになるとしたらそれは私自身の失態が原因だろう。――それに、人間のことは人間に頼んだ方が、都合がいいと思うのだ」
「花嫁ってのは、人間か」
「名はサーシャ。花売りをしている娘だ」
「なんで惚れたんだよ」
「夜空を眺める瞳が美しかったからだ」
「そんな理由で惚れるのか」
「人間の世界にもあるだろう?『一目惚れ』というやつだ」
俺は深いため息をついた。
「しかたねえな。あんたには恩があるわけだし、恋のキューピッドぐらいしてやるよ」
「キューピッドではない。そなたは天使だぞ」
「人間だ!」
俺が叫ぶと、ハジャルは小さく笑い、分厚い本をこちらに差し出した。
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