リクエスト | ナノ


 

何の気まぐれか、こいつが地獄の門の前で俺を拾い、天使にした。


本来なら地獄行きの人間は、二度と人間に生まれ変わることはなく、地獄で散々苦役を強いられた後に虫や動物に生まれ変わって酷い死を体験し、それを十三度繰り返すらしい。

俺はそれを免れた。



普通の人間は、死んだら記憶を消されて天使になるのだという。

姿形も、生きていた頃とは違う。有り体に言えばここにいても恥ずかしくないような小綺麗な見た目になる。

だが、俺は見た目も記憶も、人間だった頃のままだ。


だからこの主に純粋な敬意なんて持っていないし、黒い髪と褐色の肌、というこの姿に純白の羽根はあまりにも似合わない。

もちろん、拾ってくれたこいつには感謝している。だが俺はとにかく早く、人間に戻りたかった。

――ここは綺麗すぎるからだ。



「で?『花嫁の使い』ってのは何すりゃいいんだ?嫁をここに連れてくりゃいいのか?ていうかどこのどいつだ?ニブイあんたにもコイゴコロとかあったんだな?」


「一度にいろいろ聞いてくれるな。順を追って話すと言っているのに。これでも私も動揺しているのだ」


「うん、『これでも』っていうかあからさまに動揺してんな。顔が強張ってるぞ」


「そうなのだ。あの娘のことを考えると顔が強張るのだ」


ハジャルは心臓を両手で押さえて何度も頷いた。

いい大人のくせに恥ずかしい。

「お前の惚気は後でゆっくり聞いてやる。とりあえず続きだ続き」


「ああ、すまぬ。――ヨタカ、神の結婚については話したことがあったか?」

「あー、ええと確か、妻はたった一人しかとらないとか、結婚にタブーがないとか、そんなのは……聞いたような?」


心底どうでもいい話だからあまり覚えていないのだが、神の花嫁は生涯ただ一人らしい。

そして、誰がその『花嫁』なのかは、ある日突然、神自身が気付く。『天啓』みたいなものだろうか。そして、その判断は絶対に間違っていることはないという。便利なもんだ。

『花嫁』の種族は様々で、神同士――つまり近親婚もよくあることだし、天使と結婚する神や、変わったのだと猫と結婚した奴もいるらしい。

神様と猫の間に生まれた子供は、体は人間だが頭部だけが猫だとか。


「そうだ。つまり、私が惚れた娘は、私の生涯ただ一人の妻となる。これはさだめと言ってもいいものだ。――しかし、私自身がこの娘を迎えに行くことはまかりならん」


ハジャルは、悔しそうに眉を潜めた。


「何でだよ」

「それが、天界のしきたりだからだ」

「つくづくお偉い種族なんだな、カミサマってのは」

prev / next
(3/20)

bookmark/back/top




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -