苦笑した主――ハジャルは、なんとか言いくるめて女たちを下がらせ、再び俺に向き直った。
「最初から説明しよう」
「あー、頼むわ」
「私は神だ」
「そこからかよ!!!」
思わずまた、主を怒鳴りつけてしまう。
周りを確認したが、今度は誰も羽根をむしりには現れなかった。
「そしてそなたは天使」
「……不本意ながらな」
俺は玉座から目を逸らし、ため息をついた。
そう、目の前の主は正真正銘、神様だ。
と言ってもいちばん偉いわけではないらしい。ここ天界にはいろんな神様がいて、そいつらは全部、一番偉いナントカっていう神様の息子や娘にあたる、とか。
それぞれに『支配するもの』があって、うちの主は『夜』を支配する神様だ。
こいつがいなきゃ夜が来ない。
そして、こいつのための宮殿は、いつも夜だった。
しかしこの宮殿は、外の景色こそ真っ暗闇だが、一歩中に入ればそれは華やかである。
さすがは神の宮殿。
神に仕えるのは多数の天使たちで、それをまとめるのが数名の天使長。
神の目を楽しませる踊り子やどこからかやってきた旅芸人なんかもよく滞在していて、とにかく人が多い。
俺もそんな宮殿で神に仕える天使の一人なのだが――少しだけ他の奴らとは事情が違う。
「そなたたち天使は、ここで徳を積むことで再び人間に生まれ変わることができる。それは最初に話したとおりだ」
「ああ、そんで俺は本来地獄行きのはずだったから徳とやらが激しくマイナスなんだろ?」
「残念ながらそうだな。だが、一足飛びに徳が積み上げられる方法がひとつだけあるのだ」
「……それが『花嫁の使い』?」
「察しがいいな。そうなのだ」
満足そうに二度頷くハジャル。
まあ、普通察するだろう。馬鹿でも。
この主は多少、抜けているというか無邪気というか、あまり神様っぽくない気がする。他の神様は見たことないけど。
「普通の天使なら三度の人間への生まれ変わりが保証されるくらいの徳だ。そなたはまあ、アレだからな、一回分だが」
「まあ、アレだからな」
無理もない。
天使長の一人が言っていたように、俺は本当なら地獄行きだったのだから。
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