リクエスト | ナノ


 

「責めてるわけじゃないんだよ。むしろ、うーん……褒めてる?」

陛下は、いたずらっぽく笑って不可解なことを言った。


「褒め……?」

「迷ってる、後悔してる、殺したくなかった。そんなのが丸見えで、すごく人間らしい」


「……やはり褒めていらっしゃいませんね」

「そんなことはないよ。あー、いや、褒めてる、っていうのとはちょっと違うのかな?」


この主には、固まる前の自分の考えを、その過程を平気で口にする、という統治者らしからぬ悪癖があった。



「そうだな。『いいもの見つけた』ってところ?」


相変わらず悪戯な視線をこちらに向けながらも――その表情はどこか優しげで、慈しみに満ちているように思えた。



「君の剣は今にも折れそうだ」


主君の人差し指が、私の心臓に向けられた。



「私が力を貸すよ」



とん、と指先が心臓に触れる。



「この剣を、折れない剣にするために」



――いつかも、こんなことがあったことを思い出す。


過ぎし日の、忘れえぬ記憶。



「もちろんそれは私自身の為なんだけどね」と笑った主は、血にまみれた私の右手を、躊躇うこともなく握った。





預けた命と、捧げた心。


『覚悟とはなにか』


あの日から、ずっと探している答え。



答えは、見つからないかもしれない。



それでも、今この瞬間、私は初めて――自らの意志で、自らの未来に、決断を下した。



『折れない剣』

そんなものがあるのだとしたら。

それがこの王の望みなら。


私は少しでも、それに近いものになろう。



迷いながら、迷わずに。

恐れながら、恐れずに。

後悔を、後悔せずに。



――折れないとは、そういうことだ。





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